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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
シェルガイ-ジヤーの地から始まる戦い。

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18/155

第18話 俺が名前を日本に連れて行きます。

カヌレと別れて3日目。

セムラ達は昼は避難民に紛れて移動して、夜は人混みがかえって危険なので、村や街を出て移動を繰り返す。


アチャンメとキャメラルは潤沢な路銀を持っていたので、昼は金を払って馬車に相乗りを頼む。


「大丈夫世良?」

「はい。ありがとう雲」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん大丈夫?」

「心配だよぉ」


セムラは上等な服ではなく、ごく一般の服を身にまとい、名前を世良にして雲平の彼女として過ごさせる。雲平の名はバニエがバラしている可能性があったので、雲と呼ぶようにしていた。


乗合の馬車でも、誰一人怪しむ事なく雲平達を見るのは、地球人、それも日本人が多いレーゼに戻ろうとする雲平とレーゼ人の顔をしたセムラ。

そしてレーゼとジヤーのハーフであるバット姉妹は、避難民としてレーゼに戻る人にしか見えない。


「兄ちゃんは地球人だろ?」


馬車で話しかけられた雲平は、トラブル回避のためにも「はい」と答える。


「兄ちゃんみたいな顔の奴は、レーゼで何人も見てきたよ。それでジヤーまで彼女と旅かい?」

「ええ、まだ来たばかりで詳しくないんですけどね。でも俺には家族が居ますから」


この言葉に「もう別嬪な彼女と、可愛い家族が居るなんてすげぇな」と言われて、否定する訳にもいかないので、雲平は殊更セムラと仲良く振る舞い、アチャンメ達が「お兄ちゃん」、「私達とも仲良くしようよぉ」と甘えてくるとそれを受け入れる。


傍目には女たらしの地球人に見えてしまうが、仕方ないと受け入れる。


そしてセムラはボロが出ない為にも、「彼女、故郷が戦争になるって気が気じゃないって、夜も眠れないから、少し眠らせてあげたいんです」と言って、周りとの接触を控える為にも眠らせる。


アチャンメとキャメラルが頑張るのは、本来なら「黙れクソジジイ」、「黙らずゾ?」と睨み付けたいのを、任務の二文字で押さえつけて、「おじさん。お姉ちゃん眠いの」、「寝かしてあげて」と愛らしく振る舞い、男から「そうだね。祖国が戦争なんて落ち着かないよな。眠りなさい」と言わせる事だった。


そしてセムラが眠り、体力を回復すると夜は可能な限り移動をして、次の馬車に乗るようにしていた。


時間的にカヌレは前線の部隊と合流し、レーゼに事情を話していれば迎えがくるか刺客が来る頃だろう。


アチャンメとキャメラルも役割分担で、昼は妹のキャメラルが気を張り、夜は姉のアチャンメが気を張るが、レーゼが近付くと段々と余裕は無くなってきていた。


「クモヒラ、襲撃が始まるならそろそろダ」

「アチャンメと私が守ってやるからな」

「ありがとう。俺も頑張るよ」

「アハハ!期待してるゾ!」

「まだクモヒラの力を見てないから楽しみダ!」


雲平は、シェルガイに来た地球人が特殊能力に目覚める事を知らないので、「あまり期待されても」と思ったが、口にする事は憚れていて「頑張るよ」と言って歩いた。



・・・



襲撃があったのは夜明け前の事だった。

最初は山賊を疑ったが、剣がそこそこ上等で、手入れもキチンとされていて山賊ではない事はすぐにわかった。


そして異質さは二つあった。

一つは仮面をつけたまま外さない連中と、早々に仮面を外してフードを取った連中だった。


フードと仮面を外した連中は知らないが、雲平は知っていた。


30人程居た連中は全て日本人だった。

残りの20人は仮面をつけてフードを被っているので正体はわからない。


「日本人…」

「クモヒラと同じ髪ダゾ」

「なんだコイツらハ?」

「雲平さん」


剣を構える以上、敵という事になるが日本人の集団なのがわからない。


そう思った雲平達の前に現れたのは、武器屋で国府台帝王を従えていたマントの男チュイールだった。


「雲平…、やはりバニエから聞いていた通りだったな」

「あなたは…」

「チュイール卿!」


チュイールに気付いたセムラが驚きを口にすると、チュイールも「ご無沙汰しております」と恭しく挨拶をしてくる。


「少しお話でもしますかな?」

「何故あなたが私の道を阻むのです!」

「時勢でございます。シュートレン陛下の為にも、今セムラ姫がレーゼに戻られては困ります。宜しければ、我が屋敷で全てが終わるまでご滞在願えませんか?」


チュイールが話している間に、アチャンメは「クモヒラ、時間稼ぎされてるゾ」と言い、キャメラルも「早く蹴散らして先を急ごう」と言った。



・・・



アチャンメとキャメラルは殺気を振りまいて剣を抜くと、チュイールはこのタイミングを見逃さず、「奴隷達よ!前に出ろ!お前達は肉の壁だ!」と言った。


チュイールの言葉に耳を疑う雲平とセムラ。

チュイールは説明するように、「この者達は破産して奴隷に身を落とした地球人!私が全て買い受けた!我が命令は絶対!」と言うと、地球人達はシクシクメソメソと泣き始める。


そして口々に、「こんな筈じゃなかった」、「こんな所で死にたくない」、「日本に帰りたい」と言いながら雲平達に向かって切り掛かってくる。


アチャンメが前に出て「クモヒラ!姫様を守れ!」と言って日本人の女を斬り殺す。


キャメラルは「奴隷になったのは、お前達が悪いんだロ!」と言って斬りかかるが、仮面姿の連中に阻まれてしまう。



とにかく数を減らしたい。

乱戦は話にならない。


一瞬の膠着で、セムラが「チュイール卿!なんて事を!」と声を荒げるが、チュイールは「奴隷をどうしようが私の勝手でございます」と言った後で、「お前達!この者達を殺す事が出来れば、全員を解放してやる!さもなくばこの方が、我が軍門にくだるのであれば同じく解放してやる!」と言う。



この言葉に目の色を変えた地球人達は、セムラに向かって「お願いします」、「死にたくない」、「助けて」と懇願する。


雲平は気分が悪くなってクラクラしてしまう中、セムラは「申し訳ありませんがそれは出来ません!」とハッキリと言った。


「私がこの戦争を止めなければ、何人ものシェルガイ人が、何人もの地球人が命を落とします!アチャンメ!キャメラル!やってください!」


雲平は自身の知るセムラならば、躊躇して足を止めてしまうと思っていたが、そんな事はなかった。


「にひひ、流石姫様!」

「任せろ!」


アチャンメとキャメラルは、前に出て地球人を斬り殺していく。


立ち尽くす雲平の耳には「ギャァァ」と言う悲鳴がこびりついてきて、頭がおかしくなりそうだった。


セムラは説得ではどうにもならないと日本人達が剣を向けて来て、中には火の玉を放つ者もいた。


「日本人が火!?」


雲平が慌てると、セムラは「ウォール!」と言って光の壁で雲平ごと自身を守り、「雲平さん、地球人もシェルガイでは特殊能力に目覚めるのです」と説明をする。


「じゃあ…俺も?」

「はい。いずれなんらかの力の発露があるはずです」


セムラの言葉に、雲平は手に持ったヘブンチタニウムのショートソードと、目の色を変えて迫ってくる地球人を見て、手は震えていてどうにか平和的に解決する事が出来ないかと思っていた。


だがその考えは意味をなさなかった。


死に物狂いで突っ込んできた同年代の女をかわしたつもりの雲平は、持っていた剣で女を貫いていた。


一瞬の出来事に「え?」と言う雲平に向かって、絶望の表情をした女は「ふふふ…。もういいの。シェルガイに誘ってきた彼氏も死んだ。私は酷い目に遭った。もういいの。日本?帰っても笑い者よ。私の名前は勝田台風香。生きて帰れたら殺したって言いなさいよ」と言うと死んだ。


女は自分から雲平に突っ込んできていた。

女から垂れてくる血が手に伝わる。

生暖かさと、血生臭さと、女の言葉が雲平を追い込んでいく。


まだ落とし所を考えていた雲平は、段々と心が冷え込んでくる気がした。



・・・



時間にして数秒だったが、固まっていた雲平は剣で貫いていた女を振り払い捨てると前に出る。


驚くセムラは「雲平さん!?」と声をかけるが、雲平は止まらない。


「日本人は俺が殺すよ」

「名前を教えて」

「こんな世界で死ぬのなら、日本人の俺の手で送るよ」


雲平は、呟きながらひと組の男と女を貫いて殺した。

男女は恋人同士だったのだろう。

男が必死に女を庇って盾を向けてきたが、そもそも安物とヘブンチタニウムを比べる方がどうかしている。

雲平の銀に光る剣は、男の盾ごと男と女を貫いていた。


「名前を言ってください。俺が名前を日本に連れて行きます」


雲平はそう言ったが、男女は物凄い表情で絶命していた。



雲平の異質さに地球人達は怖気付いていた。

だがチュイールはそれを咎めない。

なんであれ、1分1秒を無駄にする事が出来れば、この戦いはチュイールの勝ちだった。


「雲平さん」

「セムラさん、ここまで来たら突き進みましょう。そしてカヌレさんと合流して城を目指すんです」


この言葉にチュイールは笑い声をあげると、「カヌレ?あの者なら崖から滑落して、もうこの世には居ない!」と言った。


セムラは青ざめて「居ない?」と聞き返すと、チュイールは「私がこうしてボウガンを放ち、麻痺毒で倒したのですよ!」と言ってボウガンを取り出すと、雲平に向かって放った。


だが、雲平はセムラを軽々と抱き抱えると、ボウガンの矢を回避する。

チュイールは明け方とはいえ、暗い森の中でボウガンをかわされたことに「何!?」と言って驚いていた。

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