第152話 私はもう雲平さんから離れません!
雲平が神の力を使って、声を伝えたい人たちに呼びかける。
セムラが日本に送られてから、ゲートを使って帰るに帰れない面々は、レーゼに居てくれたので、ほぼ全ての人達に声を伝えることが出来た。
実際はクラフティがゲート操作を出来るのだが、「おや、帰ってしまうのかい?折角セムラが居ないんだから、皆で仲良くしようじゃないか」と言われていた。
ビスコッティとブラウニーはジヤーに居たが、雲平の声に「此度の助力、本当にありがとうございます」、「うちの娘達が世話になった。今度こそ剣技を鍛えよう」と返す。
レーゼの面々は喜んだが「んー…、とりあえず1週間は、セムラさんとこっちに居るから」と言ったら皆から、「5年ぶりに日本に帰りたい!」と言われる。
これに「仕方ない」と言った雲平は皆を日本に戻して、自身とセムラ、後はバニエをレーゼに移した。
「シュザーク、ビャルゴゥ、グェンドゥ、スェイリィ、皆がうるさかったら邪魔しないでって言っておいてよ」
これには賛否両論だったが、かのこやあんこ一家は久しぶりの日本を喜んだ。
あんこの家はバレないようにグラニューが仕事で清掃をしていて、綺麗だったが家電が5年前のもので古すぎて困っていたし、あんこは着る服がなくて困った。
国府台帝王は日本政府の許可をもらって、実家にキョジュとタラーベを連れて挨拶に行き、パウンドとカヌレはグラニューに手配をさせて、子作り宣言とともにラブホテルに巣篭もりを始めた。
ミスティラはマフィンと送り飛ばされて困ったが、かのこが上手い事誘導してくれて日本暮らしを受け入れる。
かのこは久しぶりの商店街で買い物と日本食を満喫していて、健康そうな姿に老人の友達達はシェルガイへの移住を本気で考え始めていた。
「ダメなのよね。こっちは自転車に車にバイクだから動かなくなるわ」
かのこはそう言って「向こうに別荘を持つのも悪くないわよ」と勧めていた。
好意的なのはここまでだった。
金太郎はバニエの代わりに本庁で後始末に追われる事になり、瓜子は雲平に会えたら料理をしたかったのに入れ違いなる。
アグリはようやく雲平に会えると思ったのにと怒り始め、それはアチャンメとキャメラルも一緒だった。
だが当の2人はお構いなしで、セムラは活き活きと城に帰ると、シュートレンとクラフティに「これから私は5年分の寂しさを埋めて参ります。くれぐれも神様になられた雲平さんと私の邪魔をしないでください!」と言って、かつてのように浴槽を部屋に持ち込もうとする。
呆れたクラフティが「こらこら、セムラ。先に挨拶をさせておくれよ」と言うと、シュートレンも「そうだよ。クラフティは話したことがあっても、私は無いのだ。挨拶をさせてくれないかな?」と言う。
雲平が見たこともないような怖い顔をしたセムラ。
クラフティとシュートレンが「う…」と引く中、雲平が「セムラさん、俺もクラフティさんとシュートレンさんにご挨拶したいからいいかな?」と聞くと、セムラは笑顔になって「はい!」と言う。
「雲平君。本当にありがとう。身体はもう大丈夫だよ。私がレーゼの王になるからセムラは好きにしてくれて構わないよ」
「…ありがとうございます。でもいきなり妹さんを好きにしていいって言うのは…」
「真面目な話なら、あんなにイキイキとしたセムラを初めて見たし、君みたいな強い男なら安心してセムラを任せられるよ」
クラフティの言葉にセムラはニコニコしながらも雲平の顔色を伺う。
謙虚な遠慮は邪魔だと顔に書いてある。
「ありがとうございます。じゃあ基本的には、ずっと一緒にいる感じにさせてください」
まさかの言葉にセムラは目を丸くして雲平を見ると、「5年も離れ離れだったから…」と言って頬を染める雲平は「嫌ですか?」と聞く。
「いえ!私はもう雲平さんから離れません!」
「ありがとうセムラさん」
雲平はシュートレンにも挨拶をすると、「全てはミスティラやカヌレを始めとする皆から聞かせてもらったよ。この世界をありがとう。アゴール達とは家族ぐるみの付き合いをさせて貰っているよ」と言った後で、「本当は色々話を聞きたいところだが、セムラの顔が怖いから、また今度にさせて貰うよ」と言われる。
・・・
廊下に出るとそこにはブランモン隊が立っていて、「助けてくれてありがとな!」、「お帰り!」と口々に言っていて、雲平は「ブランモンさん!皆さん!」と言って駆け寄る。
ブランモンは「整列!」と声をかけると、かつて別れを告げた日と同じ立ち位置で、「ご無沙汰しております雲平殿。無事に帰ってこれました」とブランモンが挨拶をする。
「変なとことかありませんか?可能な限り皆さんの願いを拾ったんですけど、ブランモンさんは生き返ることより、レーゼやセムラさんの事ばかり願っていましたよね?」
「ははは、お見通しとは恥ずかしい。ブランモン隊、誰1人欠ける事なく原隊復帰しましたぞ!」
「良かった」と答える雲平の後ろでは、セムラが我慢ならんと顔に書いてあってお預けにヤキモキしている。
「はっはっは、姫様に嫌われる前に帰るぞお前達!敬礼!」
ブランモンの声でブランモン隊が遠ざかると、セムラは「だからすぐに部屋に帰りたかったのに」と愚痴を漏らした。
セムラは小走りになる感じで部屋に雲平を連れて行く。
真剣な表情にはしたないと言うものは誰もいない。
見送ったシュートレンが「仲睦まじいな」と言うと、クラフティが横で「はい」と返事をする。
「次はお前だなクラフティ。そもそも身体の不調を隠したりどうしてお前は昔からそうなのだ?」
説教の始まるタイミングで戻ってきたブランモンは、敗走してきた兵士よりも悲痛な顔をしている。
「ブランモン?」
「どうした?」
ブランモンが「陛下、殿下…心を強くお持ちください。こればかりは致し方ない事です」と言い出し、クラフティたちが何を言い出したのか聞こうとした時、セムラの部屋からコレでもかと嬌声が漏れ響く。
「セムラ!?」
「んな!?」
ブランモンは一応二の腕を揉んでいるだけと説明をして納得をさせる。
変な話だが本番になると声が聞こえなくなる。
2人は微妙な顔で「ブランモン」と呼びかけると、ブランモンは「無理です。賢者ミスティラにも無理でした」と返した。
シュートレンは嬌声の件を持ち出して巣篭もりにNGを突きつけて、夕飯だけは皆で食べるように命令した。
・・・
セムラが雲平の力で声が漏れなくすると言ったが、一度聞いてしまった以上、父としてダメ出しをする。
「どうして」、「5年ぶりなのに」、「お父様の意地悪」とブツブツ言うセムラに、「時間は沢山ありますよ」と言って申し訳なさそうにする雲平。
それでもセムラの顔は怖いし、巣篭もり部屋から聞こえてくる嬌声を聞いて、頭を抱えて会話に困るクラフティ。
雲平は居心地の悪さから「クラフティさんは誰に剣を教わったのですか?あのサンダーデストラクションを剣で弾くなんて凄いです!」と話しかける。
シュートレンも助かったとばかりに、「聞いたよ。雲平くんも剣が強いそうだね」と話しかけると、「初めは我流です。一度日本に帰った時は基本の剣をバニエさんが仕込んでくれました」と説明する。
クラフティは「バニエも剣筋は悪くないからね。私は幼い頃はブランモン達に教わって、あとは独学だよ。あれくらい少し練習すればすぐさ」と言って爽やかに笑う。
本当の天才なのだろう。
クラフティは「サンダーデストラクションにしても、アースランスを使うつもりで手に魔法力を込めて剣を振るえば弾けるよ」と説明した後で、「後は雲平くんのサンダーデストラクションは正確無比だから防ぎやすいんだ」と言った。
「防ぎやすい?」
「ああ、あんなに殺意満載の攻撃は、見えてしまえば防ぎやすいからね。もう少し緩急を付けるとか、虚実を混ぜないと同じ相手と戦う時には不利になるよ」
雲平が「タメになります。ありがとうございます」と喜ぶと、クラフティは「セムラとばかりでは、義理の兄としてヤキモチを妬いてしまうな。私と模擬戦を頼めないかい?」と言う。
雲平は「はい!是非!」と答えると、セムラがこれ以上ない不機嫌顔でクラフティを睨んで、「お兄様!これからの世の中に戦闘力は不要です!」と言う。
「それ、言い忘れてた。ニョトーがこの世界に授けた魔物達は居なくならないし、5年間コジナーで増えてるからサモナブレイドの結界を解いた後って結構大変だと思うんです。なのでシェイクさん達と連合軍作って対処してくださいね」
雲平が忘れてたと言うと、クラフティは「ほら!聞いたかいセムラ!」と喜び、セムラはムッとしながら「全部雲平さんが倒してくれればいいのに」と言うと、雲平は「んー…、やれますけど、それはシェイクさんとかクラフティさん達の方が良いかなって思ったんです」と言って笑った。




