第150話 寂しかったんです!
セムラの願いは布団で同衾をしながら、名前を呼んで腕を揉んで欲しいと言うものだった。
雲平は照れるには照れたが、数秒後には「わかりました!」と言ってセムラを軽々と抱き抱えてベッドに入ると、「こうですか?」と言ってセムラの腕を揉んで「セラさん」と名を呼んだ。
呼ぶ名前は違うが雲平の声、雲平の匂い、雲平の手。自分が求めていたものがあった。
だが何か違う。
自分でするよりかは格段に気持ちよかったが圧倒的な違い。
セムラはガッカリして「雲平さん、ありがとうございました」と言って終わらそうとしたのだが、雲平は一心不乱になってセムラの腕を揉んで「セラさん、セラさん」と何度も呼ぶ。
セムラは「今はセラで今は別の雲平だし、別人だからこの程度」と諦めて、「雲平さん。どうですか?」と聞くと、「このまま」と言ったまま雲平は「セラさん、セラさん」と言いながら腕を揉む。
真剣に没頭する雲平を見ているうちに、いつの頃か、あの結ばれた夜を思い出していた。
雲平が自分の上に乗って「セムラ」と何遍も名前を呼んでくれた時に感じた必死な息遣い。
今の雲平もそれを発していて必死にセムラの腕を求めている。
セムラが「雲平さん」と呼ぶと、雲平が呼び返す「セラさん」がいつの間にか「セムラさん」に変わっていて、一心不乱に「セムラさん」と呼び続ける。
次第にセムラは体に痺れるような感覚が降りてきて、「ん…」というくぐもった声が出てしまう。
それを止められず次々に声が出てしまう程、腕から懐かしい感覚が湧き上がってくる。
セムラがついあの夜を思い出して「雲平」と呼ぶと、腕から湧き上がる快感が更に湧き上がってくる。
次第に我慢できなくなったセムラは、嬌声の合間に「雲平、激しい、久しぶりで息ができない」と漏らし始めるが、雲平は止まらずに「セムラ」と呼びながら腕を揉み続ける。
もう何時間過ぎたかわからない。
夜の闇が薄れてきた頃、セムラは息も絶え絶えで、何回も身体を跳ねさせながら「雲平…まだしてくれるの?」と聞くと、雲平は「セムラ、セムラ。もっと」と言って行為の息継ぎのように、ごく自然にセムラにキスをした。
そして…。
「あれ?俺?セムラさん!?なんでここに?あれ?俺の部屋ですよ?」と言って手を止めた。
快感によって涙目で震えていたセムラが「え?雲平さん?」と声をかけると、雲平は「あれ?俺まだ16」と言いながら、自身に何があったかを思い出して「…ん?なんでセムラさんが世良さんでウチに来て?」と言う。
セムラは震える声で恐る恐る「雲平さん、記憶…」と聞くと、雲平は「はい」と言って頷いてから「おはようございます。予定より1年くらい早く目覚めちゃいました。世界は壊れてないですよね?」とセムラに聞いた。
セムラには雲平の違いが一目瞭然だった。
顔も声も同じなのに全く違っていた。
セムラは「はい。平気です」と言うと涙をボロボロと流しながら、「寂しくて死ぬかと思いました」と言う。
しかしセムラは何があっても雲平からは目を逸らさずに瞬きも最低限にしていた。
目を閉じて開けた時、雲平が居なかったらと思うと怖くて目が閉じられなかった。
泣いたセムラを見て「ごめんなさい」と謝った雲平は、「無理し過ぎたから、落ち着くのを逆算してまた17歳のあの初めて会った日に会えるように逆算したんです」と説明をした後で、首を傾げて「でも一年早いなぁ…。シュザーク達は止めてくれなかったのかな?」と不満を口にする。
セムラは号泣しながら「それは後です!寂しかったんです!会いたかったんです!たくさん愛してください!」と言うと、雲平は「はい。ただいまセムラ」と言ってセムラを抱いた。
・・・
裸になった雲平を見てセムラは「お腹の傷」と言う。かつてグラニューの剣で受けた傷は無くなっていた。
6年の時戻しでその事実も全て消し去っていた雲平は、「あんこの為です。あの日身体は治したけど、やっぱそれでただ若返らせるだけじゃ嫌だったから、きちんと時を戻した影響です」と説明をした。
昼までコレでもかと抱き合った雲平とセムラは、仮眠をして起きると夢ではなかった事に微笑み合いながらキスをして、雲平が「どうします?シェルガイに帰りますか?」と聞く。
セムラは嬉しそうに微笑むと「まずはバニエに会ってあげませんか?」と聞く。
雲平は目覚める前の自分の目で見ていたバニエを思い出して、申し訳なさそうに「あー、そうですね」と言った。
雲平は「バニエさん、ただいま」と言ってかのこの家に入ると、バニエはセムラの顔を見て全てを察して「おかえりなさい雲平殿」と声をかけた。




