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彼と彼女のデザイア。  作者: さんまぐ
地球/シェルガイ-やり直した世界。

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148/155

第148話 私だけ出ません!

雲平の自宅までは長くて短い時間だった。

セムラは5年前の日々を思い返しながら一歩一歩を歩く。

5年前、わずかな期間だが散々雲平と歩いた道。

神獣達から、雲平から離れても30分の距離と言われて守ってからは片時も離れなかった。


雲平はセムラが何も知らないと思っているので、「セラさんは地球の食べ物を食べたことはありますか?ここのお菓子は和菓子というものなんですけど、ばあちゃんが好きなんです。良かったら明日買いに行きますか?」と言ってくる。


かのこに連れられて何回も買った。

セムラは草団子の匂いが好きで、かのこに言ったら喜ばれた。あの期間で全てを食べた。

シェルガイの方が水も食べ物も美味しいが、そういう問題ではない。

美味しかった。その中で草餅と草団子の2つで悩んだが、草団子の方が好みだった。


そのことを思い出しながら「よろしいのですか?」と聞くと、雲平は「はい。俺もセラさんといられて嬉しいです」と言って微笑む。


散々自分に向けられた笑顔。

嬉しいという言葉にセムラはドキッとした。

あの雲平の口から自分といたいと言ってもらえた。


耳の中に残る雲平の声を聞きながら、「え?」と聞き返してしまうと、照れた顔の雲平は、「周りの人達が優しくて寂しくないようにしていたけど、やっぱりばあちゃんもいないし、あんこもいない。父さんはどうでも良いけど、母さんやアグリが居ないのは寂しくて、誰かと帰る事は嬉しいんです。だからかセラさんと居ると嬉しいんです」と言う。


雲平は妹の名はよもぎだと言っていた。

でも今はアグリと呼んだ。

この雲平はアグリの名は知らない。


目覚め始めている。

確実に雲平は目覚め始めている。


セムラは喜びを必死に隠して安倍川家に帰る。

セムラは思い出して欲しくて、必死にアピールをする。


同じ部屋で寝たいと言い、共に炊事洗濯掃除を行う。

擬似夫婦だった。


雲平は照れて困りながらも喜びを見せて、「セラさんと一緒にいても身体に異変がないから、俺もシェルガイにいけるかも知れません」と言い、セムラは「そうなったらぜひ私に案内をさせてくださいね」と言う。


だが雲平は目覚めなかった。


会話の端々に今の雲平には知り得ない情報が散見される。


「幼馴染のあんこが居るのはジヤーという国で、セラさんのレーゼとは遠く離れてますよね。セラさんはあんこに会ったことありませんよね?」


勿論レーゼの話もジヤーの話もしていない。

あんこの手紙やアグリ達の手紙にもそれは書かなかった。

下手な情報から暴走が始まっても困るし、そもそもは二重で神の力を得ても困る。

だからこそ今回は雲平を寂しがらせて力の源を強化させないように、手紙やバニエが奔走し、街ぐるみ国ぐるみで雲平を扱っていた。


それなのに2人で朝食を食べながらそんな話が出る。


だがそれ以上は無かった。

出るだけで目覚めない。

そしてどうやっても「セムラ・ロップ・レーゼ」の名前だけは出てこなかった。



・・・



日曜日の夜、雲平は申し訳なさそうに、「明日から学校なんです。もうすぐ春休みなので、4日だけですが、日中はバニエさんと居てもらえますか?」と声をかける。


セムラは懐かしい気持ちになる。

日曜日にレーゼから安倍川家に戻ると必ず、「セムラさん、明日から学校です。日中はばあちゃんの家で皆と居てもらえますか?」と雲平は聞く。

セムラは目の前の雲平を見ながら、かつての雲平を思い「はい。帰りに迎えにきてくれますか?」と聞くと、あの日と同じ顔で「はい。すぐに行きますね」と言った。


嬉しさが込み上げる。

喜びが込み上げる。

だが同時に焦がれる気持ちが加速する。



結局、雲平は4日経っても目覚めない。


日中、セムラはシュザークに「思い出してくれません。私だけです。会話の端々にシェイク王子やミスティラの事まで出てくるのに、私だけ出ません!」と言って泣いた。


シュザークは「泣くな」とだけ言って籠の中で休んでいた。


セムラは気分転換として、雲平と夜に食べたいからと草団子を買いに行く。

お金はバニエが用意してくれているし、街の人達も「頑張りなって、雲ちゃんなら大丈夫だよ」と声をかけてくれる。


セムラの泣き顔を見た和菓子屋は、「かのこさんが居なくなって売り上げ激減だけど、生きてるだけで幸せだよな。とりあえずこれ食べて元気出してくれよ」と言ってどら焼きをおまけしてくれた。


どら焼き…。

雲平は普段はそんなに喜ばないのに、たまにどら焼きを食べたくなって、タイミングよく食べると本当に美味しそうに食べて、「普段はもちもちしたものが好きなんですけど、たまに「甘い!」って思いながらどら焼きが食べたくなるんです」と喜ぶ。


かのこはそれを見たセムラに、「いつも買っても喜ばないのよ。本当にたまに。ポイントはね、他の和菓子をパクパク食べてつまらなそうにしたら、どら焼きが食べたいのよ」と教えてくれた。


セムラは帰るに帰れずに公園でどら焼きを見ていると、小さな男の子が「どら焼き…いいな」と寄ってきた。


日本に物乞いはあまり居ない事を知らないセムラは、レーゼならごく当たり前だからと、「食べますか?」と聞く。


「いいの?」

「はい。私には草団子がありますから」


草団子の包みを見せながらどら焼きを男の子に渡す。

どら焼きを貰った男の子は「へへ」と喜ぶと、「ヒントだぜ?アンタ雲平の前で泣いてないだろ?必死に演技してるだろ?だからだよ」と言った。



セムラが「え?」と聞き返して前を見た時、男の子はいなくなっていた。


セムラはシュザークの「泣くな」と、男の子の「泣いていないから」について考えた。

あれが本当にシュザークなら、男の子は雲平の力で生まれた何かなら…。


それで世界に何かがあったら。


だが同時に「世界より雲平に会いたい」という気持ちが勝っていた。

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