第147話 もうやだ。
正直バニエは頭を抱えたし、逃げ出したくなった。
慌てて本庁に行き「何故セムラ姫が日本にいるんですか!?」と言うと、日本政府すら知らずに、逆に通報は本当だったかと言われてしまい、近所には戒厳令を敷いて雲平とセムラを刺激しないようにした。
こうなると人間は強いもので、「ダメな時はダメ」となって、避難や混乱とかは無かった。
取り急ぎレーゼに確認を取ると、出てきたのは上司になったブランモンではなくクラフティで、「やあ!セムラと雲平くんをよろしく頼んだよ。セムラは返さないでいいからね」と開口一番に挨拶もなく言い出しやがった。
「え……殿下?」
「バニエ、君ねぇ…もう5年だよ?毎日毎日ため息混じりに散々我々に当たり散らすセムラと暮らす我々の身にもなるんだ。父上は色々考え直して高齢だが世継ぎの為に妻探しに出た程だ。セムラのイライラを受け止める仕事だが、あのブランモンがやつれたのだよ?」
バニエが何も言えないでいると、「バニエ、私は良い報告以外は聞きたくない。この言葉の意味を君なら理解してくれると思う。よろしく頼んだよ」と言って、サモナブレイドを抜いたクラフティは強制的にゲートを閉じてしまった。
日本政府から「クラフティは狂っている。シェルガイを守って日本だけを破壊できるようになったのか?」と詰問までされて、「誤解です!知りません!」と本気で否定してようやく信じられて帰宅を許された。
・・・
バニエがようやく帰るととんでもないことになっている。
神獣の名を冠したペット達。
…しかも明らかに神格というべきオーラを感じるし、シュザークと名付けられたオウムは雲平の見ていないところで、「あの規格外め、やり過ぎだ。お陰でまだ目覚めない」と言い出して見ないフリをした。
夕飯時には雲平を守り育てる任務で致し方ないのに、セムラからは最上級の嫉妬の目を向けられた。
しかもそれが守るべき上司からなのでやってられない。逃げ出したかった。
だがそんな中、雲平には小さな変化が出ている。
何故か初対面のセムラの事なのに、自宅よりかのこの家の方がセムラが落ち着けることを知っていた。
ここでしくじれば世界が崩壊する。
それなのにセムラ姫はわざと信号を送り雲平を起こそうとしている。
…火薬庫で火遊びをするような状態なのに、クラフティは返すなとまで言い出した。
雲平がセムラを連れてかえった後、バニエはかのこから「ストレスが辛くなった時には私の秘蔵の自家製梅酒を飲んで良いですからね」と言われていて、今日がその時だと秘蔵の梅酒をお湯割にして縁側に座る。
横に来たグェンドゥの甲羅を撫でながら梅酒を飲んだバニエは、香りとコクに「美味いですかのこ殿」と言って、ホッと大きな息をついた後で肩を落として「もうやだ」と漏らしていた。




