第145話 でもどうします?
じいちゃんの月命日。
この日には好物の金平糖を買って、お墓を綺麗にしてお供えをして手を合わせる。
シェルガイに行ったばあちゃんがバニエさんにお願いしていた仕事で、中学から俺が引き継いだ。
ばあちゃんが俺はじいちゃんに似て怖い人だったと言っていた。
あれ?いつ言われたっけ?
最近こんなことばかりだ。
ふと帰り道に見かけたクレープ屋は、新装開店なのにあんこに奢らされたりした事を思い出したりした。
続くようなら、今度バニエさんに相談した方がいいかもしれない。
もうすぐ夕方になる。
今日はバニエさんがカレーを作ると言ってくれていた。
カレーの日は余った野菜が亀太郎のご飯になるし良いことづくめだ。
俺が帰ろうとした時、墓場が血のように真っ赤に光った。
なんだこれ?
知っている気がする。
アナザーゲートの光?
俺は体質的にゲートに近付けないと言われていて、光を見ることすら禁止されていたのに今は平気だった。
俺はアナザーゲートの光では倒れないのかも知れない。
警察に通報しなければと思ったが、スマホは電波が入らないから諦めて管理事務所に行って、ゲートが生まれた話をしなければいけない。
俺はそう思って歩き出すと、別区画にゲートの赤い光があった。
コレだけ近づいても問題がなければ、そのうちよもぎ達が待つシェルガイにいけるかも知れない。
そう思ってゲートを見た時、ゲートの足元に女の子が倒れている。
女の子の髪は明るい茶色で、服装はファンタジー盛り沢山の、薄着スケスケで目のやり場に困る。
シェルガイ人かな?
俺が近づいて平気だろうか?
とりあえず倒れたらあの人が人を呼んでくれるだろう。
俺はそう思って「大丈夫ですか?」と近付くと、女の子は「いたたた…お兄様は何を?」と言って、周りを見て「嘘、日本?」と言って、「ここ…まさか」と言いながら振り返ると俺と目が合う。
優しい青い目の女の子は俺を見て、「あ…」と言ってすぐに目に涙を溜めて泣いてしまう。
「わぁぁぁっ!?大丈夫?ここも俺も怖く無いですよ!どこが痛いですか?」
俺は女の子に近付いて、身振り手振りで怪しく無いアピールをすると、女の子は暗い顔で「すみません。取り乱しました」と言う。
「平気です。これがアナザーゲートですか?」
「はい。ご存知ないのですか?」
「ええ、俺は体質的にゲートに近付けないと言われていたんです。今も実は倒れるんじゃないかと思ってドキドキしています」
「そうだったのですね。それなのに助けに来てくださるなんて、ありがとうございます」
「いえ、平気ですよ。でもどうします?知り合いとかいます?」
「あ…あの…」
「居ないですよね。あ、でも平気ですよ。ウチにはバニエさんって人が、家族の代わり…俺には家族ですけど、ばあちゃんの家に住んでくれているんです!その人はシェルガイの人だからきっと……お名前聞いてなかった」
「はい。私はセム……セラと申します」
「セラさんですね。きっとセラさんのことも助けてくれますよ。ウチで休んでください。歩けます?」
俺が聞いてもセラさんは立てそうにない。
どこか怪我をしたか。まだ怖くて震えているのかも知れない。
「んー…」
「雲平さん?」
「あれ?俺名前言いましたっけ?」
「は…!?え?あ…、はい。先ほど」
「ごめんなさい。最近多いんですよね。記憶が曖昧で、初めてのお店なのにシェルガイに行っちゃった幼馴染と食べた気がしちゃうんです。なので改めて自己紹介をさせてください。安倍川雲平です」
「はい。よろしくお願いします」
俺はセラさんに「ごめんなさい。変な事とかしませんし、変な所とか触りませんから」と言って抱きかかえる。
「きゃっ!?」
「あ、嫌ですか?ごめんなさい立てなそうだから…」
「いえ。嬉しいです」
「いえいえ、困った人が居たら仕方ないですって」
俺は何となくセラさんをお姫様抱っこでばあちゃんの家を目指す。
通りの人達がものすごい目でこちらを見て来てどよめいていたが、「お墓に急に現れたシェルガイの人です。大丈夫です。帰ってバニエさんに任せたいんです」と断って歩くとすぐに静かになった。
「すみません。シェルガイの人が珍しいから驚いているんです」
俺が話しかけると、セラさんは俺の肩に頭を乗せて眠っていた。
「寝てないのかな?怖かったのかな?まあいいや」
俺はごく自然にばあちゃんの家に向かって歩いていた。




