第144話 早く私の元に帰ってきて。
ミスティラが「おお、どうした?」と声をかけると、シェイクが「クラフティ殿下に今日来るように呼ばれたんです。シュザークも行けと言うので来ました」と説明し、あんこが「まあ皆に会えるのは良いけどね。アグリちゃんとか全然ジヤーに帰ってこないでさ」と続き、ホイップが「仕方ないよあんこ。セムラ姫が不機嫌で、バット姉妹もブラウニーの子からアゴール達の娘になったから、ずっとセムラ姫のご機嫌取りなんだよ」と言う。
「うぅ、まあそうだけどさぁ。お婆ちゃんも皆レーゼなんだもん!私もレーゼに住む!」
「兄上、聞きましたね?あんこはレーゼがいいそうですが、兄上はジヤーを離れられぬ身。僕ならジヤーを捨ててレーゼで暮らせますよ」
「舐めるなホイップ!移動くらいシュザークウイングでひとっ飛びだ!いや!大工事だ。レーゼとジヤーを直線距離で繋げて、7日で移動できるようにしてみせる!それならあんこは僕といれるね?」
ミスティラは「まだやっておったのか?雲平の目覚めまで待つ約束はどうなった?」と呆れながら言うと、パウンドとカヌレも「ミスティラ様ぁぁっ!それです!その約束でハニーと思う存分愛し合えません!」、「くぅっ、雲平殿、焦らすのは良くないぞ」と言っている。
ミスティラは「バカばかりだ」と呆れながら城に行くと、更に呆れてしまい頭を抑える事になる。
「クラフティ!!お前は何をやらかした!?」
「おや、大賢者ミスティラが怒ってるよ。不思議だねアグリ、アチャンメ、キャメラル」
「クラフティ様…」
「ウソだろ、殿下ってそんな奴だったのかよ」
「やべーって、世界が滅ぶかも知れねーぞ?」
アグリ、アチャンメ、キャメラルの3人はドン引きの顔でクラフティを見ているが、クラフティは知った事ではない。
「あはは、知らないよ。私はせっかちなんだ。それに毎日毎日毎日毎日延々とゲートと雲平くんの写真を見て、ため息をついて私達に八つ当たりをしてくるセムラと居たいかい?私はやだよ。これ以上一緒に居たら病が再発してしまいそうだよ」
ここにすっ飛んできた、金太郎と瓜子がクラフティに詰め寄る。
「殿下!?セムラ姫をゲートに放り込んだってどう言う事ですか!?」
「冗談ですよね?行き先はせめてジヤーのお城や神獣神殿ですよね?」
「アゴール、メロンもすごい顔だね。送り先は日本さ、かのこに聞いたら安倍川雲平くんは祖父の月命日には墓参りをすると言う事らしいし、年こそ違うが今日がセムラと安倍川雲平くんが出会った月の月命日らしい」
クラフティは自慢げにサモナブレイドを見せながらかのこに視線を送る。
サモナブレイドは万一に備えてクラフティが墓所より引き上げていた。
「オフクロ!?」
「お義母さん!!」
かのこは「ちょっと雲ちゃんが寝坊助だから、起こしてもらいに行ったんですよ。ほら、クラフティさんは若いから待てても、私はお婆ちゃんでいつお迎えがくるかわからないから待てないでしょ?」と言って笑う。
「オフクロ、あんたシェルガイに来て、肌艶良くなってて、今が死から1番遠いぞ?」
「うふふ。本当に身体が楽ね。こんな事ならはやくシェルガイに来ればよかったわ」
そう。かのことクラフティは共謀して、目覚めぬ雲平を待って悶々鬱屈としているセムラを呼び出した。
「なんですかお兄様?かのこさん?」
そう言って現れたセムラの顔はもう怖い。
「おやおや、私のセムラは今日もご機嫌ナナメだね」
「私の?私は雲平さんのものです」
気にしないでいいのに、いちいち言葉尻を拾って目を三角にするセムラ。
「うふふ。もうすぐよね。セムラちゃんがうちに来た日」
「ええ。あの日…オシコの放ったゴブリンと共に滑落した日になりますね。でもそれは来年の話ですよ?」
「うふふ。お婆ちゃんはあの日風邪を引いていて、お爺さんの月命日にお墓参り出来なかったのよね。それで遅れて雲ちゃんにお願いしたの」
「かのこさん?」
話が読めないセムラは「私、日本で日本食が食べたくなってきたのよね。そろそろ帰りたいわ」と言うかのこに苛立ち、「は?何を言ってます?皆で雲平さんが戻る日まで待つのでは無かったのですか!?」と声を荒げる。
「セムラ、目上の人を怒鳴るなんてダメだよ」
「お兄様!お兄様はもっと雲平さんに感謝をして、自らを律してください!」
怒鳴るセムラは雲平の名を呼びながら、弱々しく「雲平さん」、「会いたいです」、「早く私の元に帰ってきて」と言ってシクシクメソメソと泣き始める。
慰めるでもなく「セムラちゃん。今回のところはそうね…、お土産はちらし寿司をお願いね」と言うかのこ。
セムラが「かのこさん?」と聞き返す中、クラフティが「セムラ、そんなに感情を乱すとペンダントが暴走してしまうよ?」と声をかける。
「お兄様?そんなわけない、……何故サモナブレイドを抜いて…」
「あー、セムラのせいでゲートが暴走だー」
嘘くさい棒読みで「サモナブレイドよ、我クラフティ・ガム・レーゼの言葉に応えてゲートを開け。セムラを飲め。出現する場所は安倍川かのこの思う場所に…」とクラフティが言う。
セムラが「は?」と聞き返した時には足元にゲートが生まれていて、セムラは飲み込まれていた。




