第142話 厨二病だな。
僕の名前は安倍川雲平、11歳。
この前、この前と言っても1年前らしい。
僕は、1年間昏睡していたと病院の先生に言われた。
一年前、僕のお父さんはシェルガイで生きたいと言って、お母さんと妹のよもぎとばあちゃんと僕の5人で移住しようとした。
でもアナザーゲートに僕だけ弾かれて大怪我をした。
それから僕は病院でずっと眠っていた。
起きたら家族は皆シェルガイに住んでいて、僕は怪我が治って検査をして大丈夫と言われたらシェルガイに行く事になっている。
お父さん達は何で帰ってこないのかと先生に聞いたら、シェルガイの王様達に気に入られてしまって、大事な仕事を任されて帰れなくなったそうだ。
シェルガイではまだ7歳になったばかりの、妹のよもぎまで仕事があるらしくて僕は大変だなって思った。
お父さんにシェルガイの仕事を頼む代わりに、シェルガイからバニエさんという人が派遣されてきた。
バニエさんはとても優しい人で、「やあ、雲平殿。私のことはバニエと呼んでくれ」と言ってくれて、学校の事とかもお父さんやお母さんの代わりにやってくれる。
久しぶりに学校に行って驚いたのは、幼馴染のあんこの家もシェルガイに移住していた事だった。
僕は独りぼっちになってしまった。
僕もシェルガイに行きたかったが、検査の結果、とても珍しい体質で大人になるまでゲートに近付く事も危ないと難しい言葉で言われてしまった。
寂しかったけどバニエさんが優しくしてくれるし、たまにシェルガイの手紙を持ってきてくれる。あんこも手紙をくれていて、よもぎは王子様の友達にもなって護衛の仕事をしていて、あんこは一緒になって王子様のお友達の仕事をしていると書いてあった。
「バニエさん。写真が見たいよ」
「すまない。雲平殿、地球でシェルガイの魔法が使えないように、シェルガイでは機械が使えないんだ」
「あー、それで写真はダメなんだ。僕の写真は皆に送ってくれますか?」
「それは勿論するよ。君の成長を皆が知りたがっているからね」
僕の卒業式の写真や、中学校の制服姿にはばあちゃんやあんこ、よもぎが格好いいと手紙をくれた。
・・・
中学校生活は悪くなくて満喫している。
部活はばあちゃんが好きだった写真を思い出して写真部に入った。
皆優しいし、怖いくらいよくしてくれる。
前に何でか聞いたら、女の子からは「ご両親と井村さんがシェルガイに行ってしまったから、お母さん達が安倍川くんには優しくしなさいって言ってたの」と教えてくれた。
なんか申し訳なかったけど、バニエさんに言ったら好意は素直に受けるものだと教えてくれた。
勉強は前にやってたみたいによくわかる。
先生からは四年生の時に休学していたとは思えない程だと言われて安心したし、手紙に書いたら、ばあちゃんと母さんは喜んでくれていた。
そう言えば、六年生になった時にテレビを見ていたら、バニエさんがテレビに映った高校生くらいのお兄さんを指差して「この人がシェルガイの王子様、クラフティ様だよ」と教えてくれた。
「あんこの友達?よもぎの友達?」
「いや。あの人のお父様、シュートレン陛下の護衛が君のお父さんとお母さんなんだよ」
「凄い。あの人はなんで日本に来たの?」
「重い病気の始まりが検査で見えたから手術に来たんだよ。もう治ってシェルガイに帰る所なんだ」
「そっか…会えたらお父さんがサボってないかとか、聞きたかったけど会えないね」
「すまないね。もし今度こっちに来ることがあったら、会えるか聞いてみるよ」
そんな話が出ていたのですごく楽しみにしていた時、来年の9月に検査入院があるから会えるかもと言う話になって僕はとても嬉しかった。
・・・
中学生になったから手紙や話すときは「俺」に変えた。
夏休み明け初日、変な事があった。
隣のクラスの男子が「おい安倍川!」と言いながらクラスに乗り込んできて、「俺は今回もダメだった!もう生きていても良いことなんてない!こんな世界終わりにしてくれよ!思い出せよ!もう良いよ!世界を滅ぼしてくれよ!」と騒ぎ出した。
すぐにクラスメイトが取り押さえてくれて、先生が連れて行ってソイツは次の日から学校に来なくなった。
なんでも夏休み中に繁華街で薬物を売人に勧められてしまい、妄想の世界から抜けられなくなって俺に絡んできたらしい。
ひどく気持ち悪かった。
バニエさんは夕飯の時に、「学校でトラブルがあったそうだね?担任の先生から電話をもらったよ」と言って話を聞いてくれた。
「今回もダメとか、世界を終わりにしてくれとか、思い出せとか言われて気持ち悪かったんだ」
バニエさんは「初めての事で心に悪影響だから、少し横になりなさい」と言ってくれて寝込んだら本当に熱が出た。
あの日以来、思い出せという言葉が頭に住み着いている。
悲しかったのは、寝込んだせいでクラフティ殿下と会う約束まで無くなってしまった事だった。
今日も「思い出せ」と聞こえてくる。
「何を言っているんだか…?」
俺は独り言が増えてしまっている。
バニエさんは高校選びと受験勉強に付き合ってくれた。
もう何年も一緒に居て家族みたいだった。
・・・
高校ももう一年が終わろうとしている。
二月頭、ふとペットが飼いたくなって、バニエさんに相談をしたら「かのこさんのお家で飼いましょう」と言ってくれた。
「どうせ父さんは帰ってこないから父さんの部屋でも良いですよ?」
俺の言葉にバニエさんは笑って、「前もって言われてたんです。お父さんからは「俺の家はペット禁止、婆さんの所で飼え」と言われてます」と話してくれた。
大きなペットショップに行ったら、一目惚れした動物達をバニエさんは「是非飼いましょう」と許してくれた。オウムとリクガメと蛇と鯉なのに許してくれて驚いた。
「名前はどうします?」
「俺は苦手だから『鳥太郎、亀太郎、蛇太郎、鯉太郎』にします」
俺の言葉にバニエさんは苦笑いをしていた。
何となくだけど、この4匹を見ていると何か思い出せそうな気がする。
でも思い出して良いのかな?
世界が滅ぶとか…。
中学の時のことを思い出して「厨二病だな」と自嘲してしまった。




