第141話 星に願いを!
最後のセムラはなかなか来ない。
何かトラブルかと思ったところで部屋のドアが開かれると、浴槽と食事を持った使用人達を連れてきたセムラは「お風呂にします?お食事にします?」と聞く。
「セムラさん?」
「この部屋に結界がある以上、雲平さんは浴室に行けませんから、こちらでお入りください」
雲平は周りを見渡して「あの…。見られると恥ずかしい」と言ったが、セムラからは「既に見知っています」と返されてしまう。
セムラの熱意に、雲平は自分の力が暴走した事を疑ったがそうではなかった。
使用人達には「雲平さんのお世話は私がします。片付けはこちらから声をかけますから下がりなさい」と言うと、雲平に「先にお風呂にしましょう。返り血で汚れていますよ?」と言って風呂に誘導すると、贅沢にお湯を使って雲平の血と汗を洗い流していく。
バスローブを羽織った雲平は、用意された食事をセムラと食べる。
あえて穏やかにゆっくりと時間を忘れて食べすすめていく。
「セムラさんはお風呂は?」
「ご一緒してくれますか?」
「え!?」
「私の入浴は皆さんがお別れを言っている間に済ませました」
確かにセムラは綺麗になっていて、化粧まで済ませていた。
セムラは「ですので、2人で入ってくださるのなら喜んでお供します」と言って微笑む。
「あの…、あのお湯は汚れてますよ?」
「構いません」
セムラの熱意に雲平は「構いますって」としか言えずにいた。
・・・
のんびりと食事を済ませ、食後のお茶を飲んでいると、セムラが「雲平さん。私に思い出をください。私の願いを知ってください」と言った。
「セムラさん…」
「雲平さんは神の力で全世界の願いをまとめ上げる。それを形に世界をやり直す。それを行う時に、あなたはきっと自分を後回しにする。だから私の願いを知ってください。私の願いは…、私はあなたに再会したい。今度こそ堂々と2人で生きて行きたいんです」
雲平が「セムラさんの願い…」と口にしたとき、セムラは席を立って前のめりになって、「私からあなたを奪わないで!共に生きて!戻ってきて!」と叫んで泣いた。
泣き叫ぶセムラを見て、雲平は「ありがとう。やっぱり俺はセムラさんに会えて良かったです」と言って立ち上がるとセムラを抱きしめる。
「雲平さん、ニョトー様が仰っていました。いくら雲平さんでも、何らかしらを欠落させてしまう。取り戻せても数年は要すると言われました。雲平さんが私を忘れない為に、私が寂しさで潰れない為に…」
セムラは息を呑んで「私を抱いてください」と言った。
「セムラさん…」
「私は雲平さんを待ちます。ずっと待ちます。来なければ私は誰の妻にもならずに1人です」
「セムラさん」
「だから抱いてください」
ここからの雲平とセムラには言葉は要らなかった。
始めに「セムラさん」と呼ぶ雲平に「さん付けはやめて雲平」と言った時から、先は会話らしい会話もなかった。
雲平は何度もセムラと呼び、セムラは何度も雲平の名を呼び、忘れないで、私を1人にしないでと言い続けていた。
夜通しの行為。
夜の星あかりの中、朝焼けの中、朝日の中で抱き合った2人はごく自然にキスを交わして、「おはようセムラ」、「おはようございます雲平」と言って微笑み合う。
セムラは家臣たちに言っていた事もあり、誰1人邪推する事なく風呂の湯を換えて、朝食を用意し、返り血や様々なもので汚れていたシーツを取り替えるとまた2人の時間が始まる。
2人で風呂に入り、触れ合ってキスを交わして肌を重ねる。
あっという間に時間は過ぎて夕方になった時、雲平は「ありがとうセムラ。俺は行きます」と言った。
「え……?まだニョトー様のお言葉ではもう一晩…」
「これ以上いたら、満足して失敗しそうだから、俺はセムラにまた会いたいから、ここでやめて皆の願い、セムラの願い、俺の願いを形にしてきます」
「では皆にお別れを…」
「ううん。最後はセムラだけを見ていたい」
雲平がキスをするとセムラは泣いていて、「雲平」と何遍も名前を呼んで抱きしめると、「必ず私の元に帰ってきてくださいね」と言った。
雲平は「はい」と返事をすると、「シュザーク!グェンドゥ!ビャルゴゥ!スェイリィ!ありがとう!俺は行く!封印を解いてくれ!」と言った。
雲平は魔法も神獣武器も必要とせずに、窓から外に飛び出すと天高く飛び上がり、上層界で会ったニョトーを思い出しながら、「神の力を使う」と宣言をする。
そして「思考誘導」と言い全世界に言葉を届けた。
「シェルガイ、地球、世界中の皆さん。聞こえますか?俺の言葉は皆さんに届いているはずです。今、シェルガイと地球の危機を祓った俺の力は暴走寸前で、俺の力で今度は世界が滅びてしまう状況です。なので俺の力を使って世界をやり直します。皆は俺に願いを、俺は皆の願いを形にして世界をやり直します。それが俺の力。今俺の見ているシェルガイの星空を皆にも送ります。この先世界がどうなるか、可能性でしかありませんがそれも送りました。それが破られれば世界は崩壊します。世界全体でやり直す事に協力をしてください」
今世界中は慌てていた。起きている人も眠っている人も一律に雲平の送ってきた、世界をやり直して死んだ人達を呼び戻す方法を聞き、悪い抜け駆けをしないように徹底するように言われていた。
「さあ!見えた星空を思い浮かべてください!星に願いを!その願いを俺は形にします!」
雲平はデザーブレイドを構えると、「デザーブレイド!神の力を使う!人の願いを全て俺に!それを俺の願いにして形にする!」と言って自身に突き立てた。
雲平を中心に緑色の光が地球とシェルガイを覆った所でこの世界は終わった。




