第139話 願いと思いが俺の力。
雲平は目覚めるとセムラの部屋にいた。
菅野篤志を殺したかったのに、ホイップとアグリが邪魔をしたところまでは思い出せた。
その後の状況を思い出せない雲平に、「雲平さん」とセムラが声をかけた。
雲平はセムラに気付くと、「あ、セムラさん。俺はどうなったんですか?」と質問をする。
起きた雲平が穏やかな事に安心したセムラの前にニョトーが現れて、「大丈夫そうだな。俺様は帰って夜通し遊ぶ」と言う。
雲平はニョトーを見て、「あれ?ニョトー?どうしたの?」と聞くと、ニョトーはうんざりした顔で「お前が俺様の忠告を無視して、怒りに支配されて地球とシェルガイを破壊しかけたから止めに来てやったんだよ」と説明をする。
「え?そうなの?」
「そうなんだよ!」
雲平が「俺はどうなるの?」と聞くと、まず自分の事かとニョトーが嫌悪感を露わにして「お前…」と言ったが、雲平の質問はまったく別のものだった。
「上層界に住めば皆は助かる?死ねばいい?そもそも死ねる?」
そう表情も変えずに続けて質問をしてきた。
ニョトーは雲平の異質さに「マジかよ」と言った後で、金太郎の姿を思い出して「お前の父親の言う通りか…。仕方ねえ。説明してやるから感謝しろ」と言うと、一時的に神獣武器で結界を作り雲平の神化を止めた事を教える。
普通の人間なら慌てるのだが、雲平は慌てることもなく「それをして何日保つの?」と聞くと、「規格外め」と言ったニョトーは、「起きた今から丸2日だけだよ。その後はアイツらじゃ封じ込めなくなる」と説明をする。
「そうなんだ。じゃあ死ぬしかない?」
「いや、全人類道連れで、幸せになるか死ぬかのHIGH&LOWだよ」
「何それ?」と聞く雲平に、ニョトーは雲平の能力の根幹と得てしまった神格の話をする。
「願いと思いが俺の力」
「ああ、だからそれを使う。お前の【民衆支配】と【思考誘導】を使って、全人類にある命令をする。そしてお前が安定と定着をすれば世界は救われる」
キチンと説明も聞かずに「うん。やろう」と言う雲平を見て、ニョトーは「躊躇しろっての。で、そこに行くだけじゃ人類は救われても最良じゃない。お前を知る人たちは幸せになれない。だからもうひと踏ん張りが求められる」と言った。
「何をしたら良いの?」
「まず一つ、お前は一度お前を捨てる。準備が整ったら願いを持ってデザーブレイドでお前自身を貫き殺す。そして安定と定着を行い、お前は自身を取り戻す。そうすれば最良になる」
「あんまりよくわかんないけどわかったよ。ありがとうニョトー」
雲平は簡単に手順と流れを聞いたがとても大変な作業だった。
「わかった。皆にお別れは?言える?」
「ああ、お前が寝ている間に話は済んだ。後はお前の時間だよ。今度こそ俺様は帰って夜通し遊ぶ」
ニョトーは言うだけ言うと、もう一度雲平を見て「もし失敗して不老不死の神になったら、俺様が連れて行ってやるから、神の世界で一緒に遊ぼうぜ」と言って帰って行った。
ニョトーが去るとそれだけで部屋が静かになった気がした。
部屋には雲平とセムラしかいない。
「セムラさん」
「雲平さん」
「セムラさんは最後に時間をくれますか?」
「勿論です。残された時間の全てが欲しいですが、皆とのお別れの時間を少しだけ用意します」
セムラは泣きながらそう言った。
・・・
セムラが部屋を出るとすぐに金太郎が入ってくる。
「ったく…、バニエと政府を説得してきた」
「父さん、ありがとう。どうだった?」
「あ?このままだと世界が滅ぶから、これしかないって伝えて、助かる道はこれしかないって言ったら納得してたよ。やり切るにはお前の能力次第だからよろしく頼むってさ」
「わかったよ。頑張る」
あまりにも淡白な親子の会話。
お互いにもっと何かあるような気もするが何も起きない。
「なあ雲平。そのな…悪かったな。10歳のお前を置いてシェルガイに行っちまってよ」
「何それ?よく言うよ。父さんみたいなダメ人間は地球で野垂れ死にだよ。一家崩壊。だから良いんだって。それよりもばあちゃんと母さん、アグリとアチャンメにキャメラルをよろしくね。後…セムラさんの事もお願い」
「任せとけ」
「…やっぱり心配だ。皆にも頼もうっと」
笑顔の雲平に金太郎も笑顔で、「酷え息子だな」と言った。
次に来た瓜子は出来立てのグラタンを持ってきていた。
「雲ちゃん。また当分食べられなくなるから作ってきたわ」
「ありがとう」
雲平は食べすすめながら「あ、父さんが謝ってたから、母さんは言わないで良いからね。とりあえず俺はばあちゃんとアグリ達、後はセムラさんが心配だからよろしくね」と言うと、瓜子は雲平を抱きしめて「わかってる。お母さんと雲ちゃんは仲良しだからわかってるわ」と言う。
次はかのこで「やり切ってね」と言うと「金太郎は野垂れ死にでいいけど、アグちゃん達は全部お婆ちゃんに任せなさいね!」と続けてさっさと部屋を出て行ってしまう。




