第133話 最善を尽くしましたって言って皆殺しにしたいんですわ。
スェイリィは早くしたほうがいいと常々言っていた。
早く上層界に向かっていれば愛国鬼兵団は力を失い、カヌレが傷つくことも子を失うことも無かった。
だが雲平はまだ方法があるはずだと、セムラを悲しませたくない一心で別の方法を模索した。
そしてデザーブレイドを手に入れて、すぐにコジナーに向かえば良かったのに、セムラの望む通り朝食を共にし、出立式をしてしまった。
その浪費した時間が報いとなって雲平に襲いかかってきた。
雲平は上層界に行く事を家族に伝えなかった。
セムラとシェイクには伝えたがそれだけだった。
シェイクはシュザークに雲平に伝えてくれと言った。
アグリもビャルゴゥに雲平を呼んでくれと言った。
だがシュザークとビャルゴゥは世界を天秤にかけて、最悪の最悪を防ぐために最悪の最良を選択した。
・・・
早朝、群馬の病院が菅野篤志率いる愛国鬼兵団に占拠された。
すぐに病人や一部の看護師は解放されたが、負傷した自衛官やカヌレ、付き添いを志願していたあんこは解放されなかった。
現地で拘束されていたパウンドを解放して突入させれば良かったのに、日本政府は世論を気にしてパウンドを解放しなかった。
その結果…袋叩きにあったカヌレは虫の息で解放された。
残された自衛官と現地警察官だけで病院の奪還を命じられたが、規模も何もかも愛国鬼兵団に及ばずに皆殉職をしてしまう。
報告をもらったアグリとシェイクはビャルゴゥとシュザークに頼んだが無視をした。
その時の雲平は出立式をしていて、何も知らなかったのでコジナーに行っていた。
セムラがそれを聞いたのは雲平を見送り城に戻った時で手遅れだった。
金太郎達はバニエの運転で群馬を目指し、到着したのは午後に入ってから、病院とあんこや負傷者達の奪還を試みようとしたが、病院の中に入れば人質を殺すと言われて手も足も出せなかった。
それでも正面突破を試みた金太郎とアチャンメとキャメラルは、愛国鬼兵団の魔法と銃器に悩まされていて消耗戦に近い状況に陥っていた。
「瓜子、カヌレは?」
「私とミスティラさんのヒールで持ち直した。もう病院には行かせられないわ。何処に敵がいるかわからないもの」
「だな。ミスティラさんよぉ。俺ぁそろそろキレそうですわ。頑張りました。最善を尽くしましたって言って皆殺しにしたいんですよ。突入したいんで、援護頼めます?アグリには瓜子達の護衛をさせます」
「うむ。私も我慢ならん。それにしても性悪も何故か雲平に伝えないのが気になる」
ミスティラの言葉に金太郎は、「…奴ぁ多分人を捨ててコジナーに行ったんだと思います。俺の息子ならそうするって思ってました」と説明をする。親子だからこそできる顔だろう。金太郎は達観した顔をしていた。
「良いのか?」
「良いも悪いも無いです。俺は息子を捨てて日本から逃げたロクデナシです。とりあえずはアイツが悲しむことだけは止めてやりたい。人質の自衛官とあんこちゃんを助けない事には話になりませんよ」
「そうか、では行くか?」
「よろしくお願いします。アチャンメ!キャメラル!ミスティラさんと俺と4人の連携だ!責任は全部俺が取る!皆殺しにするぞ!」
「よっしゃぁぁぁっ!」
「殺すぞぉぉっ!」
アチャンメと金太郎が前衛に入り、ミスティラをカバーするようにキャメラルが動く。
金太郎は普段の人の良いオッサンの顔から鬼のような顔になり、「クソどもがよく聞けぇ!これ以上調子に乗ってみろ?全殺しじゃきかねえからな」と凄んで正面玄関をミスティラの魔法で吹き飛ばすと、一気に突入して玄関を守っていた構成員を斬り殺す。
「オラ!自衛官!玄関守れ!来い!俺たちは先に行く!夜になると不利だから、今すぐ奪還するぞ!」
金太郎がそう言った時、階段をかけてきた構成員が金太郎に向かってウォーターガンを放とうとして、ミスティラはサンダーウェイブを放とうとした。
だが2人とも不発だった。
直後、アチャンメとキャメラルも手に持っていたカオスチタンの剣の重たさに負けて剣を手放す。
「んだ?」
「魔法が…」
「クモヒラがコジナーを閉じたのか?」
「だから俺たちが一般人まで勢いが落ちたのか…」
金太郎は雲平がコジナーのゲートを閉じた事をバニエに伝えて、病院の奪還を自衛官達にさせた。
・・・
治療中の自衛官達は皆殺しにされていた。
そしてあんこは先に見せしめで殺された自衛官達の死体の上で、早朝から夕方の救出までの間、代わるがわる菅野篤志を筆頭とした愛国鬼兵団の連中に凌辱されていた。
確保された菅野篤志は、「この女が自分を差し出してきたから、あのシェルガイ人は虫の息で解放してやったんだ」と笑い、男共の体液が全身にこびり付いてボロボロになったあんこに、「楽しかったな」、「気持ちよかったか?」と言って高笑いしながら連行されていた。
他の構成員達は菅野篤志に従って、あんこを陵辱した者もいれば、それをせずに純粋に仲間を失った恨みを自衛官達にぶつけて殺した者もいて、全員確保されていた。
菅野篤志の指示で、金太郎達に殺された者以外は誰も自害しなかった。
「俺たちは心優しい日本国が守ってくれる。外国人と犯罪者にお優しい日本国は俺たちを守ってくれる。死のうなんて思うな。再起の機会はこれからいくらでもある」
そう言って逮捕連行されていき、警察署では報道のカメラに向かって「俺たちは日本人で、日本にいるのにあのシェルガイ人達は殺しに向かってきた」と言ってのけた。
あんこは厳重警備の中、信頼できる婦人科を受診して、処置を受けた事で妊娠の心配は無くなったが、全身顔まで全てアザだらけで歯も2本折れていた。
優しく抱きしめた瓜子にだけ反応して、「汚されちゃった」、「死にたい」、「カヌレさんだけでも助けたくて、我慢したけど嫌だった」と言い続けて泣いていた。
婦人科で風呂を借りたあんこを優しく洗ってバニエの車で帰るが、あんこは怯えていて、瓜子がカーテンを買って車の後部座席にかけて、「私とあんこちゃんだけだからね。今は寝なさい。東京の病院でカヌレさんと休んで、シェルガイに住みましょう?ね?」と声をかけて、アフターピルに混ぜた睡眠薬であんこを眠らせて、飛鳥山公園近くの大きな病院へと連れて行った。
あんこは目覚めて父母を見て泣いて謝り、「死にたい」と何遍も言う。
目を離すと死のうとしたために、アグリやアチャンメ達が交代で付き添いの形であんこと居るが、あんこは聞いたこともない怖い声で「アグリちゃん、出て行って」と言った。
「あんこお姉ちゃん?」
「出ていって。アグリちゃんを見たくないの」
あんこは穢れていない生娘のアグリが憎らしくてたまらなかった。
これからどんな恋愛をして、どんな相手に初めてを捧げて、愛し愛され幸せになるのだろう。
嫌でもそんな考えが心を支配する。
それなのに、自分は無理矢理犯された。穢された。キスをさせられた。あの汚いモノを咥えさせられた。握らされた。助けたい自衛隊の同僚達のために、カヌレの為に耐えたのに、カヌレは袋叩きの虫の息だと聞かされた。初めは病院のベッドだったが、最後は殺された同僚の上で代わる代わる犯された。
唾を吐きかけられた、体液を顔にかけられて感謝を要求された。
全身の皮膚を剥ぎ取りたかった。口の中も全て捨ててしまいたかった。
「お姉ちゃん…」
「出ていって!眩しいの!輝いてる汚れてないアンタを見たくないの!」
あんこの叫びを聞いて、かのこが「アグちゃん、お婆ちゃんと交代ね」と言ってアグリを外に出すと、瓜子と話すあんこの母が泣きながらアグリに謝る。
アグリは首を横に振って「私こそごめんなさい」と言う。
瓜子は「あんこちゃんは落ち着くまでシェルガイに連れて行こうと思うの。私たちしかいない土地なら、あんこちゃんはきっとすぐ良くなる。何も知らない相手なら誰もあんこちゃんを悪く言わない。ね?」とあんこの母に言い、ベンチで今も項垂れるあんこの父を見て、「瓜ちゃん…。シェルガイも辛いよ。雲ちゃんがお姫様と仲良くなって、あんこが王子様達と仲良くなったけど、アレじゃあ辛いって、あの子お城でいびられていても頑張るとか言っていたけど、アレじゃあ耐えられないよ」と返す。
アグリが「私もお姉ちゃんと居るよ!」と声をかけた時、「アグリ!メロン!」と言って駆け込んできたのは、あんこの事をシェイクから聞いたホイップだった。




