第132話 ニョトーの言葉を思い出せ。
雲平は「なんか変化が無いから疑わしいですね」と笑いながら起きて、セムラを抱きしめると「セムラさんに会えてよかった。あの日ばあちゃんに墓参りを頼まれてよかった」と言うと、セムラも抱きしめ返して「私も、あの日雲平さんに逢えたのは運命でした」と言う。
暫く抱きしめあって離れた雲平は「見てください」と言うと、手を伸ばして「デザーブレイド。出て」と命じてデザーブレイドを呼び出す。
「セムラさん、これが俺の武器、デザーブレイドです。この剣ならニョトーを助けられます」
「ニョトーを助ける?」
雲平は上層界での話をセムラに聞かせると、セムラは目を丸くして「世界の根幹に関わる話を聞いてしまいました」と驚きを口にする。
「そんな訳で、依代さえ壊せば解決できるので、ササっと行ってきますね」と言って笑う雲平を見てセムラは頬を染める。
「セムラさん?」
「雲平さんは何も変わっていませんね」
「そうですか?そうですよね?俺もそんな気がしてます」
「ではまず朝食を、そうしたら準備をしてください。出立式をしましょう」
「えぇ?いらな…」
「嫌です。晴れ姿を国民に見せます」
雲平はさっさと終わらせたかったのに、豪華な朝食を食べ終わるといつ作ったのか真っ白い鎧が用意されていて、今までの皮の鎧ではなくこれを着ろとセムラが迫る。
着替えるとすぐに来られた国民と臣下達の前でセムラが、「救国の戦士、安倍川雲平はこれより神獣様達から新たに授かった聖剣、デザーブレイドを持ちコジナーに向かい元凶となっている依代を破壊してきます。この勇姿を目に焼き付けて後世まで語り継ぎなさい」と宣言をすると割れんばかりの声援が届く。
雲平は困惑しながら「ええぇぇぇ…」と言うと、セムラは笑顔で「ふふ。私の夫になって慣れてくださいね」と言った。
「セムラさん、地球に住みましょうよ」
「それも素敵です」
「じゃ、スェイリィから早くしろって言われてるから行きますね。グェンドゥハンマーとスェイリィスピアは担い手が居ないから持って行きます」
「あの」
「はい?」
「私とサモナブレイドも無く行けるのですか?」
これに一瞬固まった雲平は「グェンドゥ?スェイリィ?」と聞くと、「サモナブレイド以上のデザーブレイドだから平気だよ」、「雲平1人なら通り抜けられる。だがこれ以上時間をかけるな」と言われたので、「大丈夫です。サモナブレイド は念の為にペンダントにしまっておいてください」と言って雲平は飛んで行った。
「変化とかよくわからないけど、魔法量は増えた気がする。一気に行くぞ!」
雲平はレーゼの端まで2時間で飛ぶと結界の光が見えてくる。
「グェンドゥ!どうやるの?」
「デザーブレイドにサモナブレイドの結界を抜けるように願うんだ」
「…願う」
「そう。雲平の力は願う事。それを叶えるのがデザーブレイドだよ」
雲平は右手のデザーブレイドを見て「結界を抜けるよ」と言うと、緑色の光が雲平の身体を覆う。
念の為に剣を前に出しながら結界の壁にぶつかると、するりと抜けて結界の向こうに自分は居た。
眼下には夥しい数の魔物達。
仮にニョトーを解放した際に、サモナブレイドの結界に何かがあったら、この魔物達はレーゼやジヤーを目指す。
雲平はその事を考えて「目に見える範囲だけでも倒すよ。グェンドゥ!風塵爆裂!スェイリィ!アースランス!サンダーデストラクション!!」と言って大魔法を放つと、地表に出て居た魔物達は皆死んでいた。
「これなら半神半人にならなくてもできた気がするよね」
「雲平は凄いね」
「確かにな」
その後も雲平は空を駆けながらワイバーンはデザーブレイドで切り裂き、地表の魔物は大魔法で蹴散らしていた。
暫く飛行するとコジナーの街が出てくる。
途中途中にも町や村の残骸はあったが、大きな街は初めてだった。
「ここがコジナーの城と城下町だ」
「あれ?シュザークだ」
シュザークが「我が翼を通じてシェイクには、安倍川雲平の戦いは伝えた」と言うと、ビャルゴゥも「私も今川よもぎに伝えた」と言う。
雲平がすかさず「安倍川アグリ!」と言い聞かせると、ビャルゴゥは「それもお前なら可能だろうな」と言った。
「ビャルゴゥ?」
「いや、早くニョトーを解放してやれ。時間がない」
「何かあるの?」
「ああ、だから早く倒せ」
「でも何処にいるの?」
「城の地下だ」
雲平はわかったと言うと地上に降りた。
・・・
地上では魔物達が人間のように家を使って生活して居た。
「これは?」
「ニョトーの力でキョジュが人に近い知能を与えた魔物達だ」
暫く進むと壊れた城門が出てきて、中に入ると人間達が居た。
雲平が「人間?あなた達は?」と話しかけるが話にならない。
「キョジュが魔法の力で意思を奪っている。クラフティを倒した時に聞いただろう?レーゼにいた詐欺村の人間達だ。キョジュが半魔半人にしている」とシュザークが説明してくれる。
そのまま先に進むと壊れた人間達、雲平は知らないが国府台帝王にあてがわれた女達で、タラーベは言葉を失っていて「あー…うー…」と言いながら泣くばかりで、ゴリコニはずっと中空を見て薄ら笑いを浮かべている。他の女達も壊れていて「魔物…生まれてきた…やだ」と言ったり、「帰りたい…地球」と言うばかりだった。
雲平が聞く前に「皆半魔半人の子を産み、ゲートの維持に使われた。雲平の攻撃で死んだ個体も居るがゲートの維持でほぼ全ての個体が死んでいる」とシュザークが説明をしてきた。
「オシコの子は?」
「コジナーの王子だからな。特別扱いだ」
雲平が「腹立つな」と言うと、スェイリィが「怒るなとニョトーが言っただろう?」と注意をしていた。
・・・
地下に降りると独特の臭いがする。
雲平は知らない交尾の臭い。
体液同士の交わる臭いが風通しの悪い地下に充満していて、本能的に雲平は顔をしかめながら先に進む。
地下は牢獄や宝物庫があったが、そこには何も無かった。
宝物庫の地下に大きな穴が空いていて洞窟のように地下へと下がっていたので突き進むとそこには広大な空間が生まれていた。
下手をすれば雲平が通う高校が丸々3つ程入る大きさで、少し先には巨大な木が見えた。
慎重に進む雲平は木に近付き目が慣れてきてきた時に、それが木でない事に気付いた。
根だと思っていたものは全てストロングオクトパスの触手で、その先は魔物や半魔半人達に突き刺さっていて交尾を繰り返していて、枝のような部分には腹部の膨らんだ出産間際の存在が居て、木の実のように垂れ下がる部分にはコレでもかと半魔半人の子供達が居た。
その顔は様々だったが、必ず何処かしらに国府台帝王の面影があった。
雲平は気持ち悪さに吐きそうになりながら幹に向かうと、幹から国府台帝王の身体が伸びていてシナを作って抱きつくオシコがいる。
国府台帝王はウインドホースの部分にオシコの子を乗せて遊ばせている。
夏に生まれていれば4ヶ月くらいだが、どう見ても新生児ではなく乳児の姿をしていた。
気持ち悪さに襲われながら「スェイリィ?」と声をかける。
シュザークの話ぶりで聞きたくなかった。
グェンドゥの間伸びした言い方も、ビャルゴゥの斜に構えた言葉も嫌だった雲平に、スェイリィは「魔物の繁殖力は人間からすれば異常だ。更にキョジュは自身と自身の子以外には知能や自我を封印し、能力の全てを繁殖に全振りしているから日々恐ろしい速度で子が生まれる。今まぐわっている個体も、半分は自身の子で、子を成せなくなった個体は餌に回されている」と解説をした。
「それがゲートの維持に使われる?気持ち悪い」
「ならば消すと良い。キョジュは二子を孕んでいる。すぐにコジナーにキョジュと半魔半人の力を宿した子が増える」
雲平は無言でアースランスを乱発させて、根に見えた触手という触手を破壊すると一気に国府台帝王を横一文字に切り裂く。
突然の雲平に驚き、顔を歪めたオシコが一気に魔物化して襲いかかってきたが、雲平には関係無かった。
デザーブレイドでオシコの腕を切り飛ばすと、国府台帝王ごとオシコに剣を突き立ててサンダーデストラクションを放って焼き殺してしまった。
崩壊する国府台帝王。
崩壊により枝にいた個体達は足元の生き残りの上に落ちてきて生きているものは居なかった。
「シュザーク。依代は?」
「半魔半人の足元に埋まっている。取り出せ」
雲平は掘り進めるとすぐに脈動をする肉の塊を見つけた。
「それが依代だ。デザーブレイドに破壊を願いながら突き立てて破壊しろ」
雲平は言われる通りに破壊すると、シュザークとビャルゴゥから雲平がコジナーに来ている間に起きていた最悪を教えられた。
激高する雲平に、スェイリィは「ニョトーの言葉を思い出せ。怒るな」と言い、更に「これ以上怒ると、お前の力で世界が滅びる。だから終わるまで伝えられなかった」と言ったが雲平には関係無かった。
すぐに地上に戻りレーゼのセムラの元へと飛び立っていた。
真っ赤な夕日が憎らしく思えていた。




