第131話 鳥や魚や蛇に象なのに小狡い奴らだ。
雲平は、呼ばれる声に反応をして起きると、目の前に水もないのにビャルゴゥが居た。
普段の感じで「ビャルゴゥ…苦しくないの?」と聞く雲平に、ビャルゴゥは呆れながら「お前は会ってすぐにそれか…」と言う。
「雲平は動じないねぇ」
「グェンドゥだ」
「私もいる」
「スェイリィ…今日はありがとう」
「こうなってしまえば、早い方がいい。行くぞ」
「シュザーク、ここは上層界じゃないの?」
シュザークは雲平の話に「まだここはお前の頭の中だ。上層界に連れて行ってやる。上層界の空気に触れて、お前は人と違う存在になる。覚悟はいいな?」と聞いた。
「時間がないからね」
「…時間か…手遅れ感は強いがな」
「手遅れはあっても取り戻せるよ」
「取り戻せないものもある。楽観主義者め」
「早く連れて行くぞ」
雲平の目の前が暗くなると、次は春の日差しに近い、穏やかな日差しと咲き誇る花が美しい場所に出現をした。
周囲を見渡した雲平が「ここが上層界?」と聞くと、シュザークが「まあ今はその認識で構わない。ニョトーの所に行くぞ」と言って前を歩く。
穏やかな場所は大きな公園や豪邸の庭園に見える。
心を読んだシュザークが、「正解だ。ここはシェルガイをお作りになられた神様が、ご用意された邸宅だ」と説明をした。
「たまに戻られてお休みいただいたり、シェルガイの経過を見られている」
「神様…サモナブレイドも?」
「そうだ。神様がレーゼの王族を招いてこの場で授けた。その王族は完全な神格を得る前に、人の身でサモナブレイドに命を捧げたがな」
「シュザーク達は?」
「我々は神様の代わりにシェルガイを見守る者。神格は頂いているが、実際のところ神様とは少し違う」
邸宅の庭先を歩いていると東屋に似つかわしくない青年が居た。
乱れた着衣に荒々しい雰囲気。
シュザークが「ニョトーだ」と言い、グェンドゥがニョトーに向けて「元気〜?」と声をかける。
ニョトーは「元気は元気だよ…ったく、もう飽き過ぎて吐きそうだけどな」と言って東屋に置かれた机に頬杖を付いて「その子供?やれんの?」と言って雲平を見た。
東屋に入った雲平は「どうも」と言いながら丸腰な事に気付いて慌てたが、ニョトーから「無理無理、人間が神の防壁を破るなんて、そうそうできねーって」と言って笑う。
「心を…」
「まあ、俺様って神だし。鳥っ子達も読めるんだから、上位の俺様にだって読めるっしょ」
ニコニコと話すニョトーにシュザークが「楽しそうだな」と言うと、ニョトーは「そりゃあ繋ぎ止められて300年近くだぜ?アイツは『少し反省しろ』って言ってさ、そうやって俺様を見捨てて300年だぜ?初の来客だから喜ばねえと」と身振り手振りで説明をする。
「あれ?なんかもっとギスギスしてるかと思ったのに…」
「まあ人間と魔物の戦いがあるからって、俺様達は余程の事がなきゃ険悪にはならないって」
「だがこの姿に威厳はないから地上に行く時は禍々しい姿になったりする」
「前は牛と人喰い鬼と鳥を合わせてたよね」
雲平はグェンドゥのコメントに国府台帝王の姿を思い浮かべると、「正解だ。キョジュの奴が俺様に憧れて作ったんだろうな」とニョトーが言った。
神々の他愛無い話は続く。
雲平が統合して自分なりに解釈をすると、神の中にはこうして世界を作る者が現れる。
シェルガイの神が作り出したシェルガイを見たニョトーが、「刺激が足りねーって、見てろって」と言って自身が魔物を引き連れてコジナーに地上に降り立って行く。
案の定コジナーの王は魔物とニョトーに歓喜して、魔物を取り込んでシェルガイの支配に乗り出して失敗をする。
シェルガイの神はシェルガイを無くすわけにはいかないからと、自身も地上に降り立って、コジナーの良心だったミスティラを罪人として不死者にして、コジナーの罪の精算を義務付けて、レーゼの王がサモナブレイドを授かって命を使って結界を張った。そして神様はシュザーク達を神獣としてジヤーに送り込み、ジヤーは神獣を崇め守ってきていた。
そしてニョトーはオシコに捕まってしまっていて、この庭園から逃れられずにいる事と、今も力を吸われ、更には株分けされた国府台帝王と組み合わされている事に迷惑していた。
「この場にミスティラが来たら、ニョトーに殴りかかりそうだ」
雲平の考えに反応したニョトーは、「格と言うか次元が違うから、なんとも思わねーな」と言って笑うと、「自分の物語から出てきた人間に、詰め寄られてもなんとも思わないんだよな」と言い、スェイリィからは「お前の物語ではない」と言って注意を受けていた。
「で?どうするの?この子供が俺様を解放してくれるんだろ?」
「ああ。安倍川雲平なら可能だ」
「地球人なのにいいのか?」
「お許しは得ている」
「成程。じゃあこのまま神化を待つのも一つだが、早い方がいいから俺様が神化を促して半神半人にしてやればいいんだな」
「そうなる」
雲平は必死にシュザークとニョトーの会話を聞いていて理解をしようとしている。
その姿を見たニョトーは、「あはは、安心しとけって。お前は何もしないで良いんだよ。俺様に任せておけば、あっという間だ」と言って立ち上がると、雲平の顎を持って目を見ながら片方の手で手を持つと、「んだコイツ?能力の底が見えない?こんなの半神半人にしたら最悪は即座に模になるぞ?」と驚く。
「それも含めてお許しは得ている。まあそもそも地球には既に魔物が放たれて半分以上が模になっているし、これくらいの力が無ければコジナーを一掃出来ない」
「…お前達、黙ってるだろ?鳥や魚や蛇に象なのに小狡い奴らだ」
必死に理解したい雲平を見て、上気した顔で「バカ、お前は俺様に身を委ねればいいんだよ。俺様がサイコーに幸せにしてやるよ。覚悟はいいな?」と言ったニョトーは、目を青く光らせると「神の力を使う。神の力で安倍川雲平を半神半人にする」と言った。
雲平は体に何かがまとわりつくのを感じて辺りを見ると、ニョトーが「お前、俺様の神気を感じるのか?凄いな。どの半神半人よりも強くなったりしてな。まあそんな事はどうでも良いや。寝ている間に身体が変わる。おやすみ」と言うと、雲平は夢の中なのに強烈な眠気に襲われて眠りについた。
・・・
目が覚めると東屋のベンチで眠っていた雲平の横には、白と緑を基調とした剣が置かれていた。
ニョトーは「お。起きた?」と声をかけながら近づいてくる。
「うん。この剣が俺の力?」
「おう。お前の力を剣化させた。レーゼの王は無理矢理剣を作って、それに合わせて強制神化させたから激痛に苦しんでたけど、お前は逆で神化させて溢れた力を剣の形に逃してるから、それはお前自身だよ。壊されることはないが、仮に壊されても関係ない。何度でも呼べば出てくる」
「呼ぶの?どうやるんだろ?剣よ出ろとかで良いのかな?」
「まあそれで良いだろ?名前をつけてやれよ。お前に相応しい名前だ」
雲平が名付けで悩んでいるのを見ていたシュザークが、「名前なら決めてある」と言った。
「シュザーク?」
「デザーブレイドだ」
それを聞いていたニョトーは、「desire…。雲平の能力の根幹。ピッタリな名前だな」と言って頷く。
願望?と思いながら、雲平はデザーブレイドに「戻って」と声をかけると腕を通じて手の中に入って行く。
「んじゃあ早いとこ、それで俺様の依代を壊してくれ。そしたら俺様は帰る!家に帰る!なんでちょっとそこまでで300年も帰られないんだ!」
頭を振り乱して叫ぶニョトーを見て笑った雲平は、「うん。ありがとう。頑張るよ」と言った。
「なあ雲平」
「何?」
「お前の半神半人になる為の神化が終わったのか、成長期がまだあるのか、いまいち底が深すぎてわからねえ。俺様からの忠告だが、激しい怒りに囚われるな。半神半人として人間共とはう違うと意識して生きろ。まだ割り切れないかもしれないが、人間共の戦いなんて犬の縄張り争いくらいに思え」
確かに野良犬同士が喧嘩をしていても雲平は動じない。
吠えてても「ギャンギャン煩い」くらいでそれ以上の怒りはない。
「うん。ありがとうニョトー。終わったらお礼とか言いたいけど」
「んなもん必要ねえよ。ただこうして出会って繋がったから、お前ならシェルガイや地球からでも俺様を感じるかもな」
雲平は「じゃあ行くね」と言ってシュザーク達と東屋から離れて行く。
「どうやって帰るの?」
「肉体を探し目覚める事を意識する。見つからない時のためのセムラ姫だ。今も姫は横で眠っていてお前を抱きしめている。温もりを感じろ」
この言葉で雲平は目覚めると朝になっていて、セムラが雲平を抱きしめている。
「セムラさん、ただいま。帰ってきたよ」
雲平が優しくセムラに声をかける。
セムラは慌てて飛び起きると、朝日を背に微笑んでいる雲平を見て涙ぐみながら「雲平さん。お帰りなさい。ご無事ですか?」と返した。




