第129話 俺が日本嫌いなのわかってくれます?
日本政府とアメリカ政府、それとシェルガイでわかった事をまとめた。
だが雲平の犠牲の事は出さずに報告をされていて、ニョトーの依代をどうにかしないとゲートが閉じない事を言われたアメリカ政府は、軍隊をシェルガイに送り込んで、コジナーに赴いて制圧する事を提案した。
それをすると結界を外す事になり、魔物の群れが大挙してくる事になるので承服できないとシェルガイ側は言う。
その点に関してはシェルガイ側に早期の準備を頼み、地球とシェルガイの連合軍を結成して準備出来次第一斉に攻め込む話を提案された。
ところ代わり、日本は先延ばしになった事でシェルガイに触れて魔法等に目覚める人が増え、国の為になる能力者が生まれる事を期待していた。
そんな日本政府は、自衛官やシェルガイの兵士達で編成した特殊部隊には、日本国内での殺人は認められないとしてなんとか無力化をするように言った。
これが新たな悲劇の引き金となった。
・・・
冬に入りかけたある土曜日。
愛国鬼兵団の支部を摘発する事になったが、大規模な支部と小規模な支部があり、二手に分けられる十分な人員が居なかった事、土曜日で雲平はセムラとレーゼにいた事、代わりとしてグェンドゥハンマーを雲平が預かってパウンドとカヌレが作戦に参加をしてしまった事が挙げられた。
当初はパウンドのみの参加だったのだが、あんこの参加を見たカヌレが、「あんこ殿が居るのなら私も居た方がいい。安心してくれ身重の身体で前には出ない」と言って参加をした結果、腹に銃弾をくらいカヌレは流産をした。
それもこれも日本政府の怠慢と言って良かったと思う。
小規模な支部の方に幹部級の男がいる事を知っていて、伝えずに小規模な支部の方にあんことカヌレとパウンドと2人の自衛官を送り込み、残りの人員を大規模な支部の方に送り込んだ。
銃器に関しても取り締まりを強化せずに野放しにしていた落ち度もあった。
小規模な支部の方も、当然守りは強固で幹部を逃す事に必死な構成員は小銃を持ち出して発砲をした。自衛官は銃には気をつけたがファイヤーボールなんかの攻撃に気を取られていて銃への対応が遅れた。
パウンドと2人の自衛官が先行して、あんことカヌレは後方で退路を塞いでいた。
現れた愛国鬼兵団の構成員は、単純な火魔法の使い手で幹部は水魔法の使い手だった。
場慣れしていないあんこは、カヌレと2人きりの戦場に実力が思うように発揮できなかったが、火に関してはシェイクに鍛えてもらっていた事が功を奏していた。
「あんこ、火は皆が使うから軽く思われがちだけど、取り込む事で強くなるんだよ。相手の火魔法を受け止めつつ、自分のものにして受け流したり相手に返してご覧」
この訓練が生きていて、相手の火魔法は簡単に受け止めて返してしまい、瞬く間に相手を無力化すると幹部の男に投降を促す。
年端も行かない少女に投稿を促された幹部は怒り狂ってウォーターガンを放ってくるが、あんこはそれをサンダーボールで破壊して相手を痺れさせた。
シェルガイなら相手を殺して反撃の余地を与えないが、日本だった事で火傷で済んだ構成員が小銃を取り出してあんこに向けて発砲をした。
銃撃に気付いたカヌレはあんこを庇い腹部に銃弾を受けて倒れる。
「カヌレさん!!?」
「……無事…か……あんこ殿?」
「今すぐヒールします!」
「…いや……、相手を…取り逃が…して……は……ダメだ、腕の一本でも奪って…」
あんこはカヌレの制止も聞かずにカヌレにヒールを行う。
これによりカヌレは危険な状態を回避していたので、行為自体は間違いではなかったが、幹部は構成員を見捨てて逃げ出していた。
緊急の通信で駆けつけたパウンドは、脇目も振らずに逃げ出す構成員をサンダーデストラクションで消し炭に変えた後は、必死に「ハニー!?ハニー!!」と呼びかけ続けていた。
病院に搬送されたカヌレは手術を受けて一命を取り留める。
医師からはあんこがすぐにヒールを行って、太い血管なんかを治してくれたからだと感謝をしていて、聞いていたパウンドは泣いてあんこに感謝を告げる。
あんこは必死にカヌレを治していて服や両手は真っ赤になっていた。
だが医師は水を差すように、「ですが母胎は助かりましたが、子供はダメでした」と告げた。
その頃、スェイリィから連絡を貰った雲平はセムラと共に日本に向かいシュザークとグェンドゥの力で群馬に向けて飛んでいた。
連絡をもらったシェイクは、日本政府からパウンドが殺してしまった構成員についての責任問題について詰問されていて、「何故犯罪者の人権などと甘い事を言う!シェルガイ人も負傷している!それこそどうするつもりだ!」と怒りをあらわにした。
「何だ!あの連中は!何故犯罪者を擁護してコチラに強く出る!?狂っている!!」
そう怒り、金太郎が「ですよね〜。俺が日本嫌いなのわかってくれます?」と相槌を打っていた。
・・・
雲平が病院に着いたのはありえない速度で飛んでいたこともあり、あんことパウンドがお腹の子が死んだ事を聞いて30分後の事だった。
飛んできた雲平を見て、警官隊や自衛官が道を譲ると病院の中が震えた。
その時雲平にはスェイリィの「早く行け!安倍川雲平!」という声が聞こえていて、階段を駆け上がると「やめてください!」という医師や看護師の声、「やめてパウンドさん!」というあんこの悲鳴が聞こえて来た。
カヌレの負傷と自身の子供の死に激高したパウンドは、スェイリィスピアを振り回してICUを目指し到着すると、あんこの攻撃で火傷まみれの構成員を見つけて「俺とハニーの子供が死んだ。なのにお前は治療を受けている。許せない」と言った。
片手で持ち上げて放り投げると「必殺乱打」と言いながら槍の腹で構成員を打ち上げ続けた。血の雨が降ろうがお構いなしで構成員を痛めつけるパウンドの元に雲平が到着し、「パウンド!止めるんだ!」と押さえつけたが、パウンドは「離せぇぇぇぇっ!!」と言って雲平を振り払うと、「何故止める!ハニーと俺の子が死んだんだ!許されない!!何故地球では犯罪者を殺すなと言うのか!何故犯罪者が守られてハニーが傷付くんだ!?」と言って、雲平が制止した事で必殺乱打から逃れられた瀕死の構成員の前に行き「ケシズミに変えてやる」と言ってスェイリィスピアを構えた。
スェイリィの「やめろ!担い手では無くするぞ!」と言う声が聞こえても、お構いなしのパウンドは「サンダーデストラクション!!」と唱えたが、雷は生まれず、パウンドは崩れ落ちた。
「安倍川雲平、担い手は資格を失い、我を握った事で死んだ。時を戻してくれ」
「わかった。セムラさん」
「はい。雲平さん」
雲平が戻したのはスェイリィが止めた時で、パウンドは自身の死を察して一瞬動きを止めて、スェイリィスピアを放棄すると構成員を殴り殺そうとした。
雲平はスェイリィスピアを拾って鞭状に変えてパウンドを縛り上げて、「もうやめてください。パウンドが死んだらカヌレさんが悲しみます」と言った。
セムラは「目覚めた時、あなたが居ないでどうします。パウンド、カヌレを支えてください。あなたと同じようにカヌレも辛いのです」と声をかけると、パウンドは病院中に聞こえるような慟哭の叫びで泣き続けていた。
3時間後、目覚めたカヌレの横にボロボロになったパウンドが居て、全てを知ったカヌレは項垂れて「済まない。私は妻として失格だな」と言った。




