第128話 私がレーゼを変えます。
雲平はこの日の事を忘れないと後に語る。
スェイリィの提案を受けた本人は飄々としていたが、皆がかわるがわる一言物申しにきた。
ミスティラは当然雲平を止める。
「不死より辛いものはない」その一点のみで、「人を見捨てようが何をしようが、私は許すから不死者にだけはなるな」と言った。
次はかのこと金太郎と瓜子だったが、雲平はかのこには「父さんと母さん、アチャンメ、キャメラル、アグリが居てくれるからばあちゃんは平気だよね?」と言い、かのこが返す前に「まだその気はないよ。でも決めないと。だからまだね」と続ける。
かのこからは「金太郎がシェルガイに行くと言った時と同じ顔と声、嫌になるわ」と言われていた。
金太郎と瓜子には「父さんと母さんにはアグリ達がいる。俺の事はとうの昔に捨てた子供だよね?今更親として押さえつけないよね?」と言って何も言わせなかった。
アグリ達には「ありがとう。3人がウチの子に、俺の妹になってくれたから俺は決められるよ」と言うと、泣かれてしまって困ったが、アグリに「私が今川よもぎをやめてアグリになったのと同じかな?」と聞かれて、雲平は嫌そうな顔で「アグリはずっと安倍川アグリだよ。そんな嫌な名前は出しちゃダメだよ」と言う。
「お兄ちゃん?」
「アグリは昔から俺の妹、安倍川アグリだよ」
アグリは照れながら「ありがとう」と言って微笑む。
アチャンメとキャメラルは「シェルガイに住もうぜ!な?妹じゃなくて第二婦人でもいいからさ?な?人でいてくれよ!」、「好きなだけバッコンバッコンさせてやるって!」と泣きながら訴えてきて、「あはは、ありがとうアチャンメ、キャメラル。でもさアチャンメ達とする為にシェルガイに逃げたら格好悪いよ」と言って、2人を抱きしめて「アグリとアチャンメとキャメラルにはシェルガイや地球で好きに生きてもらいたいんだよね」と言った。
ホイップまで来た時に雲平は目を丸くしたが、嬉しい気持ちで「ありがとう。来てくれたんだ」と言う。
「雲平、なぜそこまでするんだ?お前の立ち振る舞いは王のそれだ!だが雲平はごく普通の地球人で王ではない」
「あれ?止めるとかじゃなくて質問?ホイップくんらしいね」
笑う雲平に「僕は雲平を凄いと思うし応援する。でも何でか聞きたい」とホイップが言うと、「苦手なんだよ。仮にスェイリィの言葉通りに、日本に核が落ちて俺たちしか助からなかった時に、ばあちゃんが悲しむのも、あんこ達が悲しむのも嫌すぎるんだ。報復でシェルガイが戦火に見舞われたら、セムラさんやシェイクさんも悲しむだろ?それは見たくない。だから俺がここで頑張ればいいんだ」と言って笑う雲平。
「だがそれでは、かのこお婆様やアグリ達が悲しむ!それを見て平気なのか?」
ホイップの問いかけに「簡単だよ」と言った雲平は、「ばあちゃんには地球人達が、アグリには君たちが居てくれる。ホイップくんは目の前でアグリが悲しんでいたら、放っておかないで優しくしてくれるよね?」と続けて、「だからだよ」と言った。
この後は皆賛成派で、シェイクは「僕は君を友と思っているから賛成するよ。後顧の憂いがないように僕が努力する」と言うと、雲平は「ありがとうございます。俺もシェイクさんが居てくれれば安心です。あんこの事をよろしくお願いします。別にあんこと結婚とか付き合うじゃなくて、あんこはどこにでもいる女の子で、夢見がちでよく泣くから、泣いたら話くらいは聞いてあげてください」と言って、「俺もシェイクさんを友達だと思っています」と恥ずかしそうに言った。
あんこは反対派ではなかった。
どちらかと言うと諦めていて「どうせ雲平は何言ってもダメだもん。だから行って来なよ」と言った。「うん。ありがとうあんこ。でもまだ行かずに済む方法を考えてるよ?」返す雲平に、「そりゃあそれが最良だけどさ、難しい時には私がアグリちゃん達を慰めるよ」と言って笑う。
秋の夜空に映えるあんこの笑顔。
「後さ、私は結構雲平っていいなって思ってたんだよね。家も近いし、ウチの親とも仲良いし、このまま大人になって、2人してこの町から出なかったら夫婦かなって思ったりもした」
突然の告白。
「あんこ?」
「でも雲平にはセムラちゃんが居るし、私にはシェイクさんやホイップくんが居るから応援する。セムラちゃんを泣かせちゃダメだよ」
あんこは言うだけ言うと「恥ずかしいから帰る」と言って帰った。
雲平はその背中に「知らなかった」と呟いていた。
カヌレとパウンドは2人で来て雲平の応援をした。
「姫様の事は案じないで結構です」
「うん。雲平くんには期待してる」
「カヌレさんは頼もしいですね。パウンドは相変わらずで助かるよ」
パウンドは「そりゃあ俺とハニーの子供の世界は平和に限るからね」と言って笑う。
「は?」
「多分俺は父親になるんだ。俺とハニーの子供なんて可愛すぎるよ!」
ニコニコ笑顔で胸を張るパウンドに目を丸くした雲平は、「え?いつ?あれ?誰が知ってるの?」と聞く。
「姫様にもご報告していない。グェンドゥ様には伝えておいた。体付きが変わってきたら、雲平殿にグェンドゥハンマーをお願いしたい」
雲平は頷いて「はい。いい世界にしたいですね」と言って祝福をした。
最後のセムラはずっと泣いていた。
空にエスコートした雲平は、セムラの腕を堪能するとセムラはずっと鳴いていた。
一際甲高い声を上げたセムラが落ち着くと「セムラさんは俺を止めますか?世良は俺を止めますか?」と聞いた。
「止めます!止めたいです!共に生きてください!私を一人にしないで!」
「ありがとうございます。今は何とかする方法を考えます」
「そうです。何とかして私を妻に迎えてください!」
「俺と結婚してくれるんですか?」
「雲平さんは私が嫌いですか?」
「そんな事ありません。クラフティさんと戦う前に、セムラさんが俺の頬に唇を当ててくれた時は嬉しかったですよ」
夢の出来事と思っていたセムラは顔を真っ赤にして慌てて、「あれは!?夢!?違うんですか?」と聞き返す。
その顔が可愛かった雲平は、笑顔で「その顔も可愛いです。もっといろんな顔が見たい」と言うと、嬉しそうに「雲平さん」と返すセムラ。
「でも俺は王様なんてやれませんよ?」
「なら私がレーゼを変えます」
「変えるんですか?」
「はい。雲平さんが雲平さんでいられるようにします。だから私を一人にしないでください」
雲平は「頑張ります」と言ってから家路に着いた。
だが完全にスェイリィの言った「早い方がいい」と言う言葉を忘れていた。




