第126話 グェンドゥのせいで最悪になった。
スェイリィは見るからに不機嫌で、「グェンドゥの愚か者め」とつぶやき、「グェンドゥのせいで最悪になった。シュザークとビャルゴゥは反対したが私から話そう」と言う。
かのこはその前にと言って恭しく挨拶をすると、スェイリィは「安倍川雲平は過去類を見ない才能で、本来なら槍術を極めさせたいくらいだ」と返事をした。
「スェイリィ?最悪って?話すって?」
「あの愚か者のグェンドゥが、安倍川かのこと話す形で最悪について話してしまった。どのみち避けられないのであれば早い方がいい。シュザークは時間をかける事を推奨してきたし、ビャルゴゥはそれとなく導くべきだと言ったが、こうなれば犠牲は少ない方がいい。私が独断で話すと言い聞かせた」
スェイリィは深呼吸をすると「今現在ビャルゴゥの見た最悪は、おそらく地球ではシェルガイ適性に目覚めた人間の無法。力ある者が略奪を行い、弱い者が虐げられるようになる。じきに安倍川雲平達の住む地に全てを焼き払う火が放たれる。耐えられるのは安倍川雲平とその周りの人間だけだ」と言った。
この話の通りなら、シェルガイ適性に目覚めた人間達は日本中で暴れ回り、その戦闘力に世界各国が危険視をして、日本人の排除に乗り込んで核を放つ。
防げるのは異常なシェルガイ特性を持つ雲平で、雲平の力なら東京くらいならなんとかしてしまうが、滅んだ日本では食糧難が始まり、生き残った人間同士の奪い合いがはじまるし、生き残った日本人達も報復行為に出て世界中で暴れ始める。
「更に、シェルガイではシェルガイ人と地球人の、殺し合いや奪い合いが激化する。地球の武器類はシェルガイにとっても驚異だ。魔物は殺せずとも人は殺せる」
「それがビャルゴゥの見たであろう最悪。群馬のゲートが塞げないから起きる未来」
雲平のコメントに金太郎達は舌打ちをする。
「でもそれって回避不能なの?」
「…回避可能だが安倍川雲平、お前の犠牲が必要になる。数個ある未来からそれを選んだ先には更なる最悪が待つ。だからビャルゴゥは口を開けなかった。お前は奇跡的に全ての神獣武器を手にした男。最悪の最良の為には、黙っている事も考えられた」
「それは雲平さんが生き残り、シェルガイに生き残った人達と移り住んで、ゲートを閉じてしまう事ですね?」
セムラは真剣な顔で口を開いた。
そして「ビャルゴゥ様の『非情になれ』というお言葉の意味をずっと考えていました。それはこの時を見据えての事。私に雲平さんと人類を天秤にかけて選べという事」と続けた。
「セムラさん…」
「雲平さん。地球の人達を見捨てて、私とレーゼで生きてくれますか?」
セムラの言葉にアグリ達がどよめきの声をあげる。
それはセムラなら言わないであろう言葉だったからだった。
そして、雲平が口を開く前に「雲平さん、地球とシェルガイ…全世界の人達のために犠牲になってくれますか?」と言って悲しげな顔をして涙を流した。
「セムラさん…」
「選べない。選びたくない。選んで欲しくない。雲平さんはあの家に帰ると言いました。だから私は選べません」
スェイリィが「そうなるな、だからこそ余計に言えなかった」と言った時、セムラは「雲平さんの犠牲に、私を添えてくれませんか?」と言った。
「セムラさん?」
「非情になってレーゼを捨てて、セムラ・ロップ・レーゼではなく、雲平さんが疲れた私を癒してくれる時の世良の名で、世界の為に犠牲になるあなたの横に私の命を添えさせてくれませんか?」
セムラの言葉にスェイリィも黙ってしまう。
誰も何も言えない中、雲平は「セムラさん、大丈夫。何とかします」と言って微笑みかけると、「スェイリィ、いきなり犠牲って言われても困るよ。説明して」と言った。
スェイリィは「そうだな」と言うとアグリを見て、「生娘の少女に聞かせるような話ではないのだが、安倍川よもぎは立ち去るか?」と聞いた。




