第123話 この筋道の最良は現状維持だ。
かのこの予想の通りになった。
猪苗代湖にあったゲートは消えてしまい、正確な場所がわからなくなったが、明らかに群馬県、それも伊勢崎市で異常な事件や事故が増えた。
事件や事故は急な落雷による感電死や、不審火による焼死や放火、川辺でもなく雨も降っていないのに溺死や、冬場でもないのに凍死という、今までの常識では考えられないもの、中には学校で体育の成績が急に良くなったものなんかも出てきてしまった。
雲平から可能性を聞いていた政府は、慌てて箝口令を敷いたが半分手遅れで、シェルガイ適性、シェルガイに行かずとも魔法や身体強化なんかの力を得たものが、悪逆の限りを尽くし始めた。
そしてシェルガイよりもタチが悪いのは、群馬県に行けばシェルガイに行った人間と、同じ能力の発露があるとネットの力ですぐにバレた。
これはレーゼやジヤーのゲートでは意味がなく、それはシェルガイの気をあえてコジナーが出している事の証左だった。
そしてタチが悪い事はまだ続く。
シェルガイ適性が高いものは、「後腐れのない土地で無双したい」と言ってシェルガイに赴き、圧倒的な力で強盗や暴行に及んだ。
・・・
雲平達がサモナブレイドで結界を強化してから半年が過ぎていた。
レーゼではカヌレとパウンド、ジヤーでは金太郎と瓜子、シェイクが常駐する形で犯罪にあたり、アグリ、アチャンメ、キャメラル、ミスティラは対処的に地球、レーゼ、ジヤーを行き来している。
「くそっ、魔法を作れってこう言うことか」
そうぼやく雲平はシュザーク達に対処法を聞く。
今、地球の政府とシェルガイは、お互いに責任のなすりつけ合いになっている。
地球側は「シェルガイ適性の高い者の犯罪は、シェルガイの空気が流れ込むからで、何とかしろ」と言い、シェルガイ側は「犯罪者まがいの人間を、シェルガイに送り込まないでくれ」というもので、悪く言えば膠着化していて、地球側からシェルガイに伝えたのは、「犯罪者の強制送還は必要はないから、そちらで始末をしてしまってくれ」で、シェルガイ側からは「安倍川雲平を含めた人間で対処にあたるから待っていてくれ」と言うものとなる。
雲平が苛立ちながらゲートに向かって「シュザーク、これは前もってわかってたんだろ?」と質問をする。
これは何回かしているが、今回もシュザークは黙っていて、かのこが「鳥神様と話すの?お婆ちゃんも行くわ」と言うので、かのこ達を連れてジヤーに行って、人を集めてそのままシュザークの所に顔を出すと、かのこは初のシュザークにも驚かずに「初めまして、安倍川かのこです」と挨拶をする。
「知ってるよ。何を話したい?」
「申し訳ないのですが、うちの雲平に聞かれても黙っているのは行動をする事が、最悪に繋がるからですか?コレも答えられませんか?」
「ばあちゃん?」
「鳥神様達は雲ちゃん達のことを1番に考えてくださってますよ。前もってわかっていたと答えたら、原因や対処法を話す事になるわ。それをする事が鯉神様が見てる最悪に進むんだとお婆ちゃん思ってたのよ」
これにシュザークが「正解だ。この筋道の最良は現状維持だ。この会話は事態を悪くするが、決まっていた箇所に向けて加速しただけだ」と言った。
「シュザーク?それの先ってどうなるのさ?」
「世界の決まりを変えればいい。地球でもシェルガイ適性を持つ者が強者となり、戦争も何もかも変わる。それを受け入れればいい」
雲平はもうシェルガイにいながらスマホ操作をして、バニエに繋げると今の話をし、シュザークを通じてシェイクに、そして雲平経由でグェンドゥとスェイリィに情報を伝えていた。
シェイク達はこのまま地球がシェルガイと地球を合わせた土地になり、その人間が悪さをする為にシェルガイに来るというのは歓迎できないとなり、地球側は地球規模ではNGなのだが、群馬県伊勢崎市のみで能力の発露を迎えれば、他国よりリードができると日本政府の中からよくない話が出てきてしまう。
雲平は「これか」と言ってシュザークを見た。
「困ったわ〜」と言うかのこは、「ここでアメリカさんに告げ口しちゃいましょうって思ったけど、やるとそれも最悪に進むかもしれない、やらなかったらそれが最悪かもしれない、悩む事が最悪に進むのかも」と言う。
頭を抱える雲平に笑いかけたかのこが、「バカね。聞かないで決めちゃえばいいのよ。バニエさんには内緒よ」と言って雲平のスマホを取り上げてしまい、セムラに「ねえ、セムラちゃんは最悪になっても雲ちゃんを許してくれる?」と聞く。
セムラは「勿論です」と返すと、雲平と見つめ合って手を繋いで、横のミスティラが「…まったく」と呆れていた。
雲平はあの日安倍川家で話したメンバーのうち、バニエを抜かしたメンバーをジヤーに集めて現状の相談をする事にした。
雲平がカヌレとパウンドを迎えに行って戻ってくると、あんこがシェイクとホイップが用意した緋色のドレスを身に纏っていて、「やはり君の黒髪には赤が映えるね」とシェイクが褒めていて、あんこは目をハートにして真っ赤になった後で、ホイップに「ホイップくんも選んでくれたんだよね!ありがとう!」と言う。
「楽しんでるね」
「あんこお姉ちゃんは来ると、お姫様みたいになれて幸せ〜だって」
「それに王子も満更じゃねーよな」
「まあ王子の場合は、貴族のねーちゃん達がバシバシ売り込みに来てドロドロギスギスしてるから、アンコに癒されてるみてーだ」
雲平は成程と言って皆で会議をした結果、フレジェが独断でアメリカに相談をした事にしてしまう事にした。
フレジェはそこら辺はキチンと割り切っていて、レーゼと日本政府のクレームに関しても「ジヤーが置いていかれては困ります」と言い切ってくれるし、困りながらクレームを入れるバニエに、「バニエさん?シェルガイ?日本?今は全世界の危機よ!大きく物事を見なさい!」とかのこが一蹴してしまった。
アメリカはすぐに日本が高適性者の囲い込みをさせない為に手を回してきた。
それは原因の根絶が最終目標だが、今はまず伊勢崎市の都市封鎖が叶わないなら原因の追求をするように言われ、捜索なんてものを一般人には到底できないので、雲平達に話が回る事になった。
「シュザーク、聞かないけどありがとう。これで最悪に進んでも頑張るよ」
雲平のコメントにシュザークは「やりきれ安倍川雲平」とだけ言った。




