第120話 規格外の異常者の化け物め。
この話しだけではなく、シェイクを連れてきたのは4ヶ月後の話をする為だった。
「4ヶ月後。オシコは何らかをする。その話し合いにシェルガイの人達は今は復興優先だから話にならないんだ」
この言葉にミスティラが、「それは先日から考えていた。だが4ヶ月に思い当たる節が無いのだ。先日も伝えたが4ヶ月でやれる事なんて殆どない」と返す。
「うん。だから俺の身の振り方と、セムラさんの事とかだけでも決めたくてきたんだ」
「雲平?何がある?」
「うん。ビャルゴゥから世間話で、やっておいた方がいい事を俺たちは聞いたんだ。俺は魔法を作る事、シェイクさんはルールを変えて王様でもシュザークウイングを持てるようにする事、セムラさんは心構えの話と俺と離れない事」
「それ、本当に言われたのか?お前が姫様といたいだけじゃ無いだろうな?」
以前のセムラなら「アゴール」と言って止めるが今は頬を染めて嬉しそうに雲平の横顔を見る。
「で?希望は?」
「月から金は学校行って、土日はシェルガイでセムラさんは仕事してくれたら良いかなって思ってる」
「お前、王様ってやる事たくさんで大変なんだぜ?平日もやる事あるぞ?」
「だから平日はカヌレさんとパウンドが、レーゼのお城でセムラさんの手伝いとかして欲しいし、夜なら俺はセムラさんといれるから、ビャルゴゥを通じて話せるし」
無理をすれば可能な内容に、金太郎が「無敵かよお前」とツッコミを入れると、雲平は「そう?俺なんてまだまだだよ」と返した。
今度はシェイクが「雲平、ジヤーから神獣武器が無くなると困るのだが…、アグリとアゴールとメロンは?」と聞くと雲平が、「んー…、父さんと母さんはもうどうでもいいけど、アグリはやだなぁ」と言う。
「お兄ちゃん?私はシェルガイに帰るよ?」
「うん。それはアグリの好きにして良いんだよ。日本に来たくなったら来ればいいし、シェルガイに帰りたくなれば帰っていいんだよ。でもシェイクさんの言う通りだと、ずっとジヤーでこっちに来れなくなるとばあちゃんも悲しむからさ」
かのこはこの説明に「うんうん」と頷く。
「だからキャメラルとアチャンメとアグリはウチに居てくれたら、週末はシェルガイに行けるよ」
「私達もこっちカ?」
「良いんだけど退屈ダゾ?」
「んー…、そうなるか」という雲平に、シェイクが「雲平、解決になってない。1人でも使い手に居てもらわねば…」と困り顔で言う。
「ああ、シェイクさんはシュザークウイング持って行って、頑張って王様と担い手の二重生活をやってください」
「なに!?」
ミスティラが「雲平、それでは万一の時に空を飛べまい?」と聞くと、雲平は「んー…」と言って黙る。
雲平の「んー…」にミスティラは青い顔をして、「やめろ。何を考えた?」と聞くと、スェイリィスピアを見て、「スェイリィ、飛べるようになろうよ」と言い出した。
「何!?私がか?」
「うん。レーゼにも神獣武器が一つあればいいし、緊急時にはサポートでアグリとアチャンメ達を送るから、日本に残るのはスェイリィスピアにして、スェイリィスピアに飛行能力付けようよ」
スェイリィは不思議そうに「お前は特殊能力を無視するのか?」と聞くと、雲平は「無視?そんなんじゃないよ」と言って笑う。
ここで金太郎が「グェンドゥハンマーに頼めよ、風魔法で飛ぶとかヨォ。地球でアースランスとかサンダーデストラクションを使われて、損害賠償請求が来ると困る」と口を挟む。
「えぇ?父さんが払ってよ」
「馬鹿野郎、俺の金は可愛い娘達の、アチャンメとキャメラルとアグリに使うんだよ」
雲平は妹達の顔を見て「確かに、それはダメだ」と言うと、グェンドゥハンマーを持ち出して、「グェンドゥ、飛ぼうか?」と聞く。
グェンドゥは笑いながら「雲平となら飛べる気がするよ〜。練習しようか?」と言ってくれた。
これにより神獣武器はシュザークウイングがシェイクの手元に戻り、ビャルゴゥリングはアグリ預かり、スェイリィスピアはパウンドが持ってカヌレとレーゼに住む事になった。
そのままの流れでアグリに「アグリは日本退屈?」と聞くと、アグリは「お婆ちゃんとは居たいけど、身体を思い切り動かしたいかな」と言う。
雲平は「ふむ」と言うと「んー…」と言ってまた黙る。
「やめてくれ」というミスティラの声を無視して、サモナブレイドを構えて「セムラさん、ゲート操作の力を出してみてくれません?」と言った。
少しして雲平は「んー…、言葉が通じれば良いのになぁ」とボヤくと、シュザークに「サモナブレイドと話とか出来ない?なんでセムラさん達の話なら聞けるんだろう?」と言った。
「血だ。サモナブレイドは神が遣わした剣。誤作動を防ぐ為にも、レーゼの王家の血のみに反応をし、レーゼには無闇矢鱈に王族を増やすなと盟約があるから、シュートレンは兄弟が居なかった」
「危ないなぁ、それって平気なの?」
「最低保証というかな、クラフティにしても1人なら病にならなかった。セムラ姫も最後の1人だから殺される以外に命に関わる病にはならない」
「なるほど、とりあえずサモナブレイドには言葉が通じなくて、セムラさんしかダメなのか」
横のアグリがいい加減気になって「お兄ちゃん?」と聞くと、雲平は「待っててね。アグリ達の為に頑張るからね」と微笑み、ほんの少しだけ悩んでから「セムラさん、俺と一つになってください!」と言った。
意味を誤解した面々は赤面になって焦り、カヌレは「破廉恥な!」と怒ろうとしたが、当のセムラは「はい!どうすればいいですか?」と聞く。
「アグリ、ビャルゴゥリング貸して」と言った雲平がビャルゴゥリングを腕に装着して、セムラと恋人繋ぎになり「もう一つの手は俺と一緒にサモナブレイドを握ってください」と頼む。
「ビャルゴゥ、俺とセムラさんの息とか血の流れが同じになるように息を整えるから、合わさるように力を貸してよ」
「異常者め、また荒唐無稽な事を始めたな」
そう言ったビャルゴゥだが、「吸え」、「吐け」、「安倍川雲平、お前が少し遅くしろ」、「姫の目を見て自分も姫だと思え」、「姫も安倍川雲平を自身と認識しろ」と言い、しばらく見つめ合っていると「今だ」とビャルゴゥが言った。
雲平は「サモナブレイド、ゲート設置」と言って、庭先にアナザーゲートを生み出してしまった。
アナザーゲートを見たシェイクが、「…ゲートだ」と言い、金太郎が「何しやがった雲平」と聞く。
「え?アグリ達が身体を動かしたくなったら、これでジヤーでもレーゼでも行けばいいし、夜ご飯になったら帰ってきてくれれば、皆でご飯食べられるし、カヌレさん達の仕事が大変なら夜に持ってきてくれたら、翌日までにセムラさんがやってくれるし」
アチャンメとキャメラルが「クモヒラ?繋がったのか?」、「何処にだ?」と聞くと、雲平は「ジヤーの城とレーゼの城のゲートに繋げたよ」と言って微笑む。
「ありがとうございますセムラさん」
「私はお手伝いしただけですよ?」
「マジか、じゃあ動きたい時はゲートに入れば良いんだな!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
だがここで待ったをかけたのは本庁の人間とバニエだった。
「防犯面でこれは困る」と言ったのだが、雲平はニヤッと笑うと「ゲート、閉じて」と言って閉じてしまう。
閉じたゲートを見てミスティラが、「…お婆様の前では言いたくないが何をした?規格外の異常者の化け物め」と言うと、雲平が「ミスティラ酷い」と言って、アグリに甘えるように「アグリ、ミスティラが意地悪を言うよ…」と告げ口をする。
甘えられたアグリが「お兄ちゃん、私も気になるよ」と言うと、雲平は「あ、アグリも気になるなら教えるよ」と言って説明をした。
「このゲートは作る時にセムラさんの真似をして、『私の他に安倍川雲平の声に反応して、起動と停止をしなさい』ってやったんだよ。無事に出来たから、アグリ達が行きたくなればセムラさんか俺に頼めば行けるし、戻る時もシュザークとかスェイリィでもビャルゴゥにも言ってくれればゲートを開くからね」
「うわ。お兄ちゃん凄いねぇ」
「アグリの自慢のお兄ちゃんにならなきゃいけないから、もっと頑張るね」
「クモヒラすっげぇ!!」
「マジでレーゼの王になっちまえって!お前と王子様の仲ならシェルガイは盤石だよ!」
「キャメラル、俺はならないよ。俺の家はこっちにあるし、婆ちゃん達が住んでるんだよ?」
「ブレねーのな」
「ちぇー」
諸問題を片付けた雲平だったが、ここで簡単に手放したなとシュザークがヤキモチを妬き始める。
ミスティラが嬉しそうに「可愛いところがあるな。高慢よ」と言うと、シュザークは「言うな不死者。空まで飛ばれては面白くない」と言ってから、雲平に「自動防御はどうする?グェンドゥには出来まい?」と言って自分の有用性をアピールする。
雲平はごく自然に「え?シュザークがやってよ」と言い出し、シュザークは「なに?」と聞き返す。
このやり取りを見たミスティラは「…もうやだ。私が賢者なのに…」と言って落ち込んだ。
「んー…アイスナイフのシュザーク版を作るから、飛ばしてシュザークウイングと同じ仕事をしてよ。あ、それならそもそも飛ばす能力とかあると楽だね」
シュザークは最後には「言わなければよかった」と言いながら雲平が作ったフレイムナイフを飛ばしていた。
おまけだが、雲平が「ビャルゴゥ…」と呼びかけると、ビャルゴゥからは「断る」と即答されていた。




