第119話 お兄ちゃん、聞いても平気?
かのこは寝室にしている方の部屋も開けると、居間は20畳近くなり大人数でも問題が無くなる。
雲平が「俺とセムラさんが飛鳥山公園のゲートに巻き込まれて…」と言ったところで、本庁の人間が「故意ではないと?」と言って雲平とセムラを睨む。
雲平はもう人目も憚らずにセムラとアグリを横に座らせて、セムラの手を握ったりアグリの頭を撫でたりしていて、そのままかのこを見て「ばあちゃん、疑われてる」と言う。
即座に目を三角にしたかのこが「はぁぁぁ!?ウチの雲ちゃんとセムラちゃんは事故の被害者です!」と言って睨み、「疑うの!?疑ってるの!?」と言って食ってかかる。
本庁の人間は身じろぎながら、「いえ…、多方向から物事を…」と言ったのだが、かのこは「ゴチャゴチャうるさいわ。雲ちゃんとセムラちゃんは被害者よ!信じるの!?信じないの!?」と更に詰め寄り、「多角的に…」と言った時には、「はいかいいえで答えなさい!どっち!?」と聞かれた本庁の人間は、「はい。信じます」と言った。
「大丈夫よ雲ちゃん、セムラちゃん。お婆ちゃんもここの皆も信じてますからね」
「ありがとうばあちゃん」
「かのこさん、ありがとうございます」
改めて雲平が説明を始める。
「ゲートに巻き込まれた俺たちはレーゼの国境に居て、とりあえずスェイリィの力とか使ってアグリにメッセージを送ってみたけど、地理的にジヤーよりレーゼが近いから、コッソリと城に忍び込んで、レーゼのゲートで帰ろうとしたんですよ」
よくもまあシレッと言うもんだと金太郎は思いながら、「あれか?セムラ姫ならゲート操作が出来るから、それを考えたのか?」と相槌を打つ。
「うん。それで夜中だったから近くの村に朝まで居させてもらったら、オシコの送り込んだ半魔半人が村に来て、『日本人が俺達を日本に縛りつけてる間にレーゼを滅茶苦茶にする』なんて言うから、慌てて戦う羽目になったんだよ。偶然だったけどレーゼに居れて良かったよ。ね?セムラさん。あのままだったら村の人達が全員殺されてたよね」
セムラはアドリブにも関わらず「はい。雲平さん」と返す。
「それでシュザークに聞いたら…。ね?シュザーク」
シュザークウイングからは「ああ、キョジュ…オシコは国境に点在する村々を全て襲うと言って、100の兵士を放っていたから、我が翼で雲平が飛び回って倒してきた」とシュザークの声が聞こえてきて、本庁の人間は「剣が話す…」、「これが神獣武器」と言って驚いていた。
アチャンメとキャメラルが「するってーとクモヒラは国境の村を全部救ったのか?」、「どんだけ距離あると思ってんだよ」と相槌を打つ。
「もうすごく大変で疲れてさ、たまたま最後に寄った所がパウンドとミスティラが住んでた街で、パウンドの弟さん達に保護してもらって、ミスティラとパウンドの部屋で一晩休んだんだ」
「ふむ。向こうでも聞いたが、別に部屋はもう良いと言ったのだが真面目な奴らだ」
「…雲平くん。シフォンとカステラの奴らは祝っていたんだよね?ハニーを奪わないよね?」
雲平がミスティラとパウンドの話に答えている間に、金太郎が日本地図を見せながら「うちの息子、姫様抱っこして空飛んで山口から岡山、大阪、静岡、栃木、青森辺りにある村とか街に迫る魔物を、何往復もして蹴散らしたって話ね」と説明する。
瓜子の「雲ちゃん、お母さん続きを聞きたいわ」の言葉で、雲平は「その後はレーゼの城まで行って…」と話した所でセムラが泣いてしまう。
「姫様?どーした?」
「何があった?」
「セムラさん、言いますね」
雲平はブランモン隊がオシコの魔法で死ぬことも叶わず、夢を見た状態で口では仲間と言いながら身体は武器を持って襲いかかってきた話をする。
「んな!?」
「マジかよ」
「雲平、あの死霊魔法を相手によくやれたな」
「うん。昨日も思ったけど、ミスティラはあの魔法を知っていたんだね」
「ああ、かつてオシコがコジナーで使っていたからな。あまりの悪趣味さに腹が立ち全部焼き尽くしてやったわ」
「うん。俺もグェンドゥと考えた魔法飛ばしの風で夢から目覚めてもらって、セムラさんがお姫様として褒めて、俺もあの日助けてもらったお礼を言ってからインフェルノフレイムで送ったよ」
落ち込むセムラに「セムラ姫、彼らは本望だったはずです。胸をお張りください」とシェイクは優しい顔をして、横のあんこは目がハートになっている。
死者が動いて襲いかかってくる事に本庁の連中は目を丸くするが、ぷかぷかと浮かび話をする剣や、ゲートの向こうから来る魔物達を知っているだけに何も言えない。
「それで俺達はクラフティさんの所に行ったよ」
「クラフティさん?」
「クモヒラ、さん付けするのか?」
アチャンメとキャメラルの相槌はありがたい。
「うん。あの人はあの人で最後までレーゼの事を考えていたんだ」
これにはカヌレまで涙を見せて、パウンドが「ハニー、大丈夫?」と優しい言葉をかける。
「俺達はクラフティさんの部屋に行くと、時間はあるから休息を取る事を言われて万全で挑んだ。強かったけど勝てない強さじゃなかった。戦闘中に半魔半人達やレーゼ周囲の魔物達が動き始めたからアースランスを放ったら、クラフティさんも放ってくれて、大物だけはなんとか倒して、その後クラフティさんを倒して俺たちは全部を聞いた」
話のテンションと重さに皆が次の言葉を待つ中、アグリが口を開く。
「全部…。お兄ちゃん、聞いても平気?」
「うん。心配してくれてありがとうアグリ」
雲平はアグリを撫でてから、「クラフティさんは病気だった。一部の日本政府の人は知っていたはずです」と言って本庁の人を見ると、本庁の職員はゆっくりと頷き認めて、何も知らなかったバニエは驚いた顔で「それは本当ですか!?」と言う。
「はい。自身の死後に、シュートレンさんとセムラさんだけで、ジヤーとコジナーと地球とやっていく事を悩んだクラフティさんの元にオシコが現れて、命を長引かせる事と引き換えにゲートの解放を求められたんだ」
「オシコ…魔物化した事で人を捕食する目が備わったから取れた手だ。アイツには時間だけなら無限にある。その時間でチャンスを伺っていた…」
「ええ、話を知らないとご都合主義に聞こえるけど、オシコは何百年も生きているからクラフティさんじゃなくても、仮にシェイクさんやホイップくんが病気になったら迫っていたよ」
バニエが「そんな…殿下…」と言って苦しそうな顔をする中、雲平は「クラフティさんは命を繋いでジヤーとレーゼを一つにするにしても、残されたセムラさんが苦労しない為にジヤーを狙い、セムラさんから取り戻した力で完全になったサモナブレイドでオシコも倒すつもりでした。そして死後の憂いをなくすつもりだった」と続けた。
金太郎が「クラフティが戦闘中にレーゼ周辺の魔物を殺した理由は?」と聞く。
「オシコは国府台帝王の死で壊れていて、今までと全く違う行動に出たんだ。日本政府にも伝えた4ヶ月の為にコジナーに帰る時、クラフティさんが裏切ったり死んだりした時はレーゼ中の魔物が人を襲うように指示を出していた」
「戦闘中にお前の攻撃に偽装して国民を守ったんだな?」
「うん。俺は街中の半魔半人を殺したけど、クラフティさんは外の魔物だったよ」
金太郎は頷いて「わかった。続きを話せ」と言う。
「クラフティさんの最後の願いを叶える為に、俺とセムラさんとクラフティさんでコジナーの結界を強めて、猪苗代湖に出たゲートにしても魔物も人も通せなくした」
ここでセムラが「私はレーゼの女王として兄クラフティの命でゲートを閉じました。サモナブレイドは重い剣。雲平さんには我が剣として持っていただきました」と続ける。
「うん。クラフティさんとセムラさんと、3人でクラフティさんに剣を突き立ててセムラさんの力でそれをした。その後は俺とセムラさん、クラフティさんの願い、レーゼ中の人達を助ける。それをしたよ」
アチャンメとキャメラルが「クモヒラ?」、「それってまさか…」と聞くと、雲平が「うん。人が居なければ大魔法だけど、無理だからセムラさんに付き合って貰ってレーゼ中を飛んで、大魔法とか剣で全部倒してきた。サモナブレイドは折れないとかシュザークが言ってたけど怖いから、途中でブラウニーさんの剣も使ったんだ。だからボロボロなんだよね」と説明をする。
あんこが「雲平、私やお婆ちゃんはわからないけど、レーゼって広いんだよね?どのくらいの広さなの?」と聞くと、雲平が「ユーラシア大陸とアフリカ大陸を合わせたくらいかな?シェルガイにいたから飛ぶのも楽だったしね」と答え、本庁の人間は「広大な大陸中を飛んで魔物を蹴散らす?」と言って目を白黒させていた。
「それでまた力尽きて、パウンドのベッドで寝かしてもらってからシェイクさん達と合流して、後はシェルガイの話をビャルゴゥ達としてから帰ってきたよ」
雲平は「まあこんな感じ」と話すと、かのこだけは「お使いお疲れ様ね。お婆ちゃんがキチンとお金はもらっておきますからね」と言って笑っていた。




