第117話 代償のない力などない。
雲平の帰還には3日程かかった。
午後にパウンドの家で目覚めた雲平は、食事をもらうとジヤーの城に向けて進む。
観測班やコジナー側を防衛していたカヌレが、より強固になった結界を見ていてオシコを無事にコジナーに閉じ込められたとジヤーの高官達は喜び終戦の話になる。
大切な話はカヌレとパウンドが戻ってからビャルゴゥの神殿で行われる事になり、その日はゲートを越えてきてから、今日までなにがあったかを簡単に伝える事となる。
クラフティが病気で長くなかった事、残されるセムラやレーゼの為にオシコの提案を受けた事を話した時、ジヤーの高官はクラフティを悪く言った。
「だけどそれは間違いではないですよね?今も数に物を言わせている。一つになるなんて言いようだけど、貴方達は間違いなくレーゼを属国のように扱う。今だって下手をしたら統治面を口にして、代わりに管理をしてやる。管理をしてやったんだから、もうここはジヤーのものだと言いかねない」
雲平の言葉に高官達はシンとする。
これにはシェイクも「勝手な発言は控えるんだ。僕はジヤー王としてセムラ姫…女王陛下を妻に迎えようとは思っていない。古の盟約にある一つにと言うのは目指す道を一つにして共に進む意味だ」と言ってくれた。
「雲平、地球人でありながらここまでの尽力に感謝しかない。全ての神獣武器の担い手として、可能であればこれからもシェルガイを共により良くしてもらいたい」
シェイクの言葉に、雲平は「んー…。俺はシェルガイには住みませんよ。通いで良ければですかね。後は地球と交渉して仕事にしてください。まあ今は学生なので学校を卒業しないと」と言って話は終わった。
・・・
ミスティラから「何もやましい事はないな?」と言われた雲平とセムラは、ミスティラとシェイクの好意で隣同士の部屋にされていて、しかもそこは部屋の中のドアを通じて行き来が可能になっていたので、夜は共に過ごしていて使用人達は驚いていたが、ミスティラから「一種の精神安定だ。2人ともまだ若い。お互いを支えにしているから、取り上げると大変だ。神獣武器の暴走やゲートの暴走等見たくないだろ?」と言われて何も言えなくなる。
翌日戻ったのはカヌレの方が先で、パウンドは少し後だった。
カヌレはブランモンやクラフティの話を聞いて、涙を見せて落ち込んで居たが、パウンドは戻るなりカヌレを抱きしめてパートナーとして慰めていた。
ゲートはセムラと雲平がサモナブレイドを手にした事で安定していて、ビャルゴゥの神殿に顔を出してこれからについて話をする。
ビャルゴゥ神殿なのは、シュザーク達は神獣武器を介して会話ができるが、ビャルゴゥだけはリングがアグリ預かりなので、代わりに雲平が口を出しても信用されないと面倒だからだった。
正直ついてきた高官達は邪魔だったが、話す他なくて雲平の機嫌はよくない。
察したミスティラがアチャンメ達の代わりのように、「雲平、パウンドとカヌレが仲睦まじくて手持ち無沙汰だ。この階段はしんどい、肩に座らせろ」と言って機嫌を取った。
雲平は案外面倒見が良く、小さな身体で階段を登っていたミスティラを褒めて背負うと、ミスティラは「小さいのは不便だが、まだ胸も膨らんでおらんから楽だがな」と言って笑った。
「そんな物なの?」
「私はデカくなるから動きが制限されて敵わん。一度老いて若返るとよくわかる。それにしても雲平は扱いが上手いな。お前の子は幸せに育つな」
「そうかな?」
「なんだ?自信がないのか?」
「そりゃあないよ。あの父さんの子供ってだけでも減点なのに、育てられていないからね」
「なるほどな、だが子を育てた事のある私に言わせれば雲平、お前なら大丈夫だ」
雲平は「ありがとう」と返すと「子供か」と呟いていた。
・・・
ビャルゴゥの元での話し合いは決して良いものではなかった。
コジナーを退けて平和を手にする。
この共通の目的があったから上手くいっていたが、終わった途端に宰相のフレジェは志をシェイクと共にしたが、それ以外の連中は何とか収支を損害ではなく利益で終わらせる為に必死になっていた。
雲平は一つのことが気になっていたが、それどころではない話し合いに苛立ちながら、「ビャルゴゥ。貴方はどう思う?」と声をかけて話し合いを止めてしまう。
「どうとは?わざわざ私の前に来てする話ではないなとか、煩いなと言えばいいか?」
「それは腹立つからぶちのめしたいよね。違うよ。オシコの4ヶ月だ。ビャルゴゥは見えてるの?何が待ってるの?言うと最悪に進むの?」
雲平はレーゼ中の魔物を倒してからずっとその事を気にしていた。
日本でも4ヶ月、シェルガイでも4ヶ月。
それは伊達や酔狂ではない時間。
昨晩はセムラの手前言えなかったが、ミスティラやシェイクとはこの話をしたかった。
「キョジュの4ヶ月か…。見えているよ。それはシュザーク達も見えている。レーゼのブランモン達はキョジュが魔法で妨害をしていたが、4ヶ月の方は隠す気はないようだ。それはよくない話ではある。手の打ちようはない。対処的な話になる。未来に関しては、これ以上は言いようがないな。言えば更に最悪になる」
「更に?」
「ああ、もう既に最悪に片足が入っている。キョジュがあの半魔半人に惚れたからで、お前達に罪はない。この場合は逃げようはない」
「シェイクさん」
「…ビャルゴゥ様、備えられる事は?」
「ジヤーの王、お前とレーゼの女王にはどうすることもできない。シュートレンとビスコッティ、クラフティなら出来たがお前達には無理だ」
「何がですか?」
「なぜ我々ではダメなのです?」
「人の心を一つに出来ないからだ。今この場でもお前達はお飾りだ。家臣達はお前達を無視して話を進めている。シュートレンもビスコッティも家臣達をこんな野放しにはしない。クラフティには言い聞かせられるだけの力があった」
話を聞いていた雲平は、「ビャルゴゥ、それはミスティラに任せよう」と提案をする。
ミスティラの「私か!?」と言う言葉を無視して、雲平は「4ヶ月後、それまで何が出来るの?」と聞くと、ビャルゴゥは「何もないな。対処的にこれから起きる事件に向かうしかない。安倍川雲平、お前は地球をまとめられるか?」と聞き返してきた。
「俺にその力はないよ」
「だろうな。シェルガイ行き一つ認めさせられず、無理矢理きたお前だ。次は地球、シェルガイ、双方が戦場になる。戦いが始まってから、その先を決めるまで何もできない。攻め込まれたら暮らしと住む場所、戻る場所を守る為に戦うことしかできない」
雲平は子供に無理を言うなと思いながら、「今できる最良の策を世間話してよ」と言うと、ビャルゴゥは「世間話が許されるなら…か。安倍川雲平はシェルガイを捨てずに魔法を作り続ける事、ジヤーの王は人心をまとめ、ジヤーのルールを変えて王の身でシュザークウイングを身に纏えるようにする事」と言い、最後にセムラを見て「レーゼの女王は2つ、非情になる事と安倍川雲平から離れない事、30分以内に合流出来るところに必ず居ることだ」と言った。
「ありがとうビャルゴゥ。でもさ未来が見えるのに口出しできないって疲れない?」
「もどかしくて嫌になる」
「それなのにありがとう。ここ数日も本当にありがとう。シェルガイにきてからずっと魔法を使えたのはビャルゴゥ達のおかげだよ」
雲平の言葉にビャルゴゥは、「……安倍川雲平、お前…やはり気付いていないか…。我々は声をかけられたが、シュザークウイングの飛行以外は殆ど力を貸していない。お前の力の源は孤独。代償のない力などない。忘れるなよ」と言い、「こんな事はそこの不死者以来だが、お前の未来は最悪以外見えなくなった」と呟くと、「もう帰れ。神獣達はこれまで通りシェルガイを守る。コジナーの脅威を忘れるな。以上だ」と言って水底へと行ってしまった。
今日明日でどうにかなる話ではないとして、あまり良くないがセムラの他にパウンド、カヌレ、ミスティラにシェイクも連れて一度日本に行く事となった。




