第115話 頼りにならない兄でごめんよセムラ。
クラフティはセムラと雲平を見て、「セムラは手紙を読んだんだね。向こうとは文字が違うから、安倍川雲平君は読んでいないね。私は病気でもう死ぬんだ」とクラフティは言った。
セムラは表情を暗くして俯いてしまう。
セムラを見て「ごめんよセムラ」と言ったクラフティは、「だからこの命を使い切ろうとした」と言い、雲平を見て「君はこの世界の事を少しは知ってくれたかな?この世界にはコジナーの脅威があり、その為に生まれた古の盟約が私達を縛り続けていたんだ」と言う。
雲平は「人が減ったら、ジヤーとレーゼは一つになる」と言うと、「ありがとう。説明が省けて助かるよ」と言って、空を眺めながら「シェルガイの為には必要でも、個人には邪魔な事だ」と言ったクラフティがセムラを見る。
「私が病に気付いたのは3年前。シェルガイの魔法や医療では話にならず、地球の医療を頼った。私達は世界こそ違うが、同じ人だから薬も効くんだ。父上達には地球に心惹かれたとお忍びで行って、バニエ達にも告げず、日本政府の高官しか知らない事だが、私は病院で治療を受けたんだ。だがダメだった」
そう言ったクラフティが再び空を見る。
「治らずこの一年で病状は悪化。医師の見立てでは1ヶ月前に限界を迎えていて私は死んでいる。最後の一年はかなり焦った。レーゼの事、残される父上とセムラの事。今私が死ねば、父上はご高齢で男児は居ない。間違いなく父上の死後に、セムラは女王の重圧に苦しんだ果て、ジヤーと一つになる事を強要され、シェイク王子かいい噂を聞かない第二王子の妻にさせられる。そう思った私の前にオシコが現れた」
雲平はクラフティの話を聞きながら、この世界を見てきた約ひと月を思い返していた。
確かに姫と女王では重圧が違いすぎる。
ジヤーに従う女王では早晩セムラは潰れる。
いくらシェイクがしっかりしていても、それは必至の未来だった。
「オシコは一目で私の身体を見抜いてきたよ。魔物の目らしい。人を捕食する時に美味いか不味いか、食べて平気かを見極める為の力らしい。オシコは提案をしてきたよ。代償はサモナブレイドでコジナーのゲートを開ける事。提案は…ジヤーを滅ぼす事と私に命を与えること。コジナーにレーゼは眼中に無かった…神獣武器だけが目障りなんだ」
「それであなたは…」
「ああ、残された命でジヤーを滅ぼして、古の盟約を反故にする。そしてオシコ達を私の命でコジナーに押し戻して、新たなシェルガイの女王にセムラを託すつもりだった。だから私はあの日、力を見せてセムラが心を寄せる君の存在に救われたんだ」
「シュートレンさんは?」
「オシコとの約束を守り、ジヤーを滅ぼす為に結界を開ける為に必要だった。私はまだ死ねない。父上とセムラなら天秤にかける必要はない」
クラフティは話しながらどんどん顔色が悪くなっていく。
「もう時間が残されていない。全ては手紙に記したから、後はそれをセムラに読んでもらってくれ」
クラフティはセムラを見て「頼りにならない兄でごめんよセムラ。いつまでも君の身と幸せを1番に考えているよ」と言う。
「お兄様!!」
「わかっているよね?結界を強めてゲートを閉じる必要がある。私には時間も力も残されていないが3人ならやれるよ。妹としては辛くてもレーゼの姫としてやれるね?」
涙を流すセムラが「そんな…、お兄様…。もっと話してくれれば!いえ!私がお兄様の異変に気付けていれば!!」と言うと、クラフティは「仕方ないよ」と返す。
「5年以上前に地球の医療に出会えていれば救われたが、私も気付かなかった異変だよ?」
そう言った後は真剣な表情で、「さあ、セムラ。セムラ・ロップ・レーゼ、宝玉を使いなさい。安倍川雲平君、もう力尽きた私の代わりにサモナブレイドを私に突き立てるんだ。さっきの一太刀が放てるんだから、やってくれるね?」と言った。
「クラフティさん…」
「頼むよ。君が居てくれれば、私がいなくてもセムラは安心だと思えるように、頼むよ」
雲平はセムラの手を取って「セムラさん、一緒に…。時戻しの風と同じで2人でやりましょう」と言い、涙を流し続けていたセムラは雲平を見て「雲平さん。お願いします」と言ってクラフティを見て、「さようならお兄様」と言った。
セムラは凛々しい表情で立つと「私の名はセムラ・ロップ・レーゼ!宝玉よ!サモナブレイドよ!クラフティ・ガム・レーゼの命を捧げ、ここに門を閉じる事を命令します!」と言って雲平と共にクラフティにサモナブレイドを突き立てた。
サモナブレイドからは真っ赤な光が放たれて天に昇る。
ビャルゴゥ達からは終わった事が告げられて、雲平はクラフティの胸からサモナブレイドを抜き取ると、「セムラさん、終わりました」と言う。
セムラは雲平の胸に飛び込んでコレでもかと泣いていた。
暫くして泣き止んだセムラは、クラフティとオシコの最後の会話を教えてくれた。




