第109話 淡い期待を持たせるな。
レーゼに入った雲平とセムラはどうするべきかと相談しながら前進をする。
夜が明けてきて、見えた村の様子なんかをみたいが、仮にセムラとバレても困る。
オシコの耳に情報が入るのを避ける為にも下手な戦闘なんかは回避したい。
だがクラフティがクーデターを起こして約1か月、国の状況を知りたいとセムラは言っていた。
セムラは「国の惨状」と言いたいのを飲み込んで「状況」と言っていて、雲平はそれを無碍にする事は出来ずに受け入れる事にした。
立ち寄った村は雲平には見覚えがなく、セムラに聞くと「本来ならカヌレの通った道で通過する村です」と教えられて納得をしていた。
村の治安は悪くない。もっと荒れ果てている事を見越していた雲平だったが、気になったのは適正人数が50だとしたら30くらいしか人がいない事で、老若男女問わず少ない気がする。
旅人を装い聞くと、レーゼ兵を連れて来たオシコが15人の村人を攫い、抵抗したメンバーは殺されていた。
それで今は人が少ないと言う事だった。
若い連中は気付かなかったが、1人の老婆はセムラに気づき、生きていた事に感涙して家へと招く。
セムラは困って雲平を見るが、雲平は優しく微笑んで「俺が何とかしますよ。セムラさんは思ったままでいいですよ」と言うと、セムラは感謝を口にして老婆の家へと向かった。
老婆の家には金太郎くらいの歳の息子夫婦と孫まで居て、詳しく聞くとクラフティはレーゼ人への手出しを認めておらず、オシコに対してもキチンと守らせていた。
それは宣戦布告の際にクラフティが宣言をしていて、その宣言状を持って来て読み上げた兵士の言葉通り守られていた。数日すると次の兵士が来て「密告のあったレーゼに相応しくない民の村からコジナーのオシコに罪人達の処刑や処遇を決めさせた」と言った。
息子夫婦が人伝に聞いたのは北側の国道沿いで、冒険者を騙して金品を取り上げて借金を背負わせて奴隷にして売り捌く詐欺村が、密告によりオシコに襲撃されて村人全員が連れて行かれたと言う。
事態が変わったのは10日くらい前の話で、オシコが死んだ目をしたレーゼ兵とやって来て「くだらない会話は不用よ。状況が変わったの。今すぐ15人の村人を選んで出しなさい」と言った。
困った村人達は何も言えずにいたが、「我々は何もしていない!クラフティ殿下のお言葉を反故にするのか!」と言った血の気の多い男達が殺されて、その家族が連れ攫われてしまった。
それは話を聞くと他所の村でもおこなれていて、少なくとも国境だけでも100人近くが連れて行かれたという話だった。
「そんな…」
「クラフティは何をしてるんですか?」
雲平の言葉に「聞いた話ではオシコの手でレーゼ城に半軟禁、幽閉されていて外に出て来ないそうだ」と息子夫婦が語る。
この言葉にセムラがクラフティも被害者なのではないかと淡い期待を抱き、雲平を見て「雲平さん!」と言うと、雲平は頷いてから「クラフティが捕まっているなら助ける事も視野に入れましょう」と言って微笑んだ。
そうは言ったのだが、雲平の耳には「淡い期待を持たせるな。サモナブレイドで封印するにはレーゼの犠牲が必要だ」、「クラフティはシュートレンの命で、サモナブレイドの封印を解いてコジナーのゲートを開いた。救出は不可能だ」とシュザークとビャルゴゥの声が聞こえて来ていて、クラフティの救出が難しい事を受け入れるしかなかった。
だが口から「助ける事も視野に入れる」と言った雲平に、今更「やはり殺しに行きましょう」とは言えずに苦しむ事になった。
・・・
老婆はセムラと雲平にぜひ食事を食べて欲しいと言ったが、雲平は存在が迷惑になるからと断ろうとした時、外が騒がしかった。
「姫様とお付きの方は顔を出さずに」
老婆の声で言われてしまった雲平だったが、シュザークウイングを介して外を見ると、格好はレーゼ兵だが、どう見ても異質な雰囲気の男達が村にやって来て、セムラ姫を出せと騒ぎ、知らないと言った老人を持ち上げると、オークに変わりながら老人を握りつぶして殺してしまった。
血の雨の降る村。
悲鳴が村を覆い、皆が逃げるのを背後から切り捨てるレーゼ兵は、姿をゴブリンやオーク、蜥蜴人間や蜥蜴騎士へと変貌させて暴れる。
「オシコ様のご意志に背く奴らは贄でも何でもない!死だ!廃棄だ!」
そう言って次々に村人を襲い始める。
「セムラさん!」
「雲平さん!」
2人に躊躇はなかった。
時戻しの風を使うと老人が握り殺される前に戻り、「私はここにいます!」とセムラは出て雲平はシュザークウイングを構えて前に出る。




