第107話 お前…演技?本気?
雲平のシェルガイ行きは深夜に行う事になった。それはあくまで誰も悪くない。雲平とセムラが独断で行った事にする為の事で、無理は禁物だったが、ある程度は仕方ない無理とする事にした。
朝から安倍川家は忙しい。
朝一番に起きたアグリは演技ではなく早起きをして、「お父さん!スマホ買って!早くお店行こうよ!」とやる。
「お前…演技?本気?」と寝惚けた金太郎だったが、起きてアチャンメ達や雲平を連れてかのこの所に顔を出すと、全員起きていてバニエまでいた。
「あれ?バニエ泊まったっけ?」
「昨晩、あの後本庁に戻ってアグリ嬢達の身分証を用意したり、スマートフォンの契約代金なんかの手続きをしました。おそらくアグリ嬢なら朝からお店に行くと思い、1番でこちらに来ました」
「うわ、マジで?ごめん」と謝る金太郎に、「いえ、町内会の清掃でかのこ殿に呼ばれて慣れました」と返すバニエ。
金太郎は肩を落として「オフクロ、バニエを息子扱いすんな」と言うが、かのこは「あら、息子以上です」と返すので、渋い表情の金太郎はセムラに「姫、どうかバニエに褒賞をお願いします」と言う。
バニエは優秀で、商店街のおばちゃん服とネットショップの刺青Tシャツはキチンと抑えていて、アチャンメ達に用意をして「これで雲平殿を止めてくださいね」と伝える。
それだけでは終わらず「スマートフォンは隣町の商業施設でどうでしょう?契約には時間がかかります。その間に皆さんでショッピングをしませんか?」と提案までしてきた。
こうなると安倍川家の行動は早い。
あんこまで含めた全員で出かける事になるが、「バニエさん、帯刀許可って出ました?」と雲平が聞くと、「ダメです。出ませんでした」と返される。
「雲平はウォーターソードが出せるんだからいいだろ?」
金太郎の言葉を無視した雲平は、「仕方ないからセムラさん、ペンダントの中に俺たちの剣を入れてください」と言って剣を渡す。
そしてバニエに「携帯許可が降りなかったから仕方なくセムラさんのペンダントに入れましたからね」と言った後で、急に棒読みになって「こんな事してるとゲートが誤作動とかしそうだよなー」と言い、これから起きるとこは仕方のない事だとアピールする。
・・・
商業施設の買い物はとても楽しいものになった。
アチャンメやキャメラルはおばちゃん服も好きだが、瓜子やあんこが褒めて喜ぶうちに地球の服にも興味を持って着こなすようになり、程よく引き締まった身体がマネキンのように服を引き立たせる。
「クモヒラ、似合うか?」
「可愛いだろ!褒めていいんだぞ!」
そんな事を言っている間に、アグリとバニエと金太郎とかのこはスマホを買いに行き、機種変と新規契約を済ませる。
政府が発行したアグリの身分証があれば、今川よもぎや安倍川よもぎの名前は不要で、「アグリ?安倍川アグリでいいよな?」と金太郎が聞いて、アグリは「んー…、お婆ちゃんは?お婆ちゃんもスマホを持つなら、安倍川よもぎでもいいんだよね。アグリとかのこよりよもぎとかのこの方が可愛くない?」と言いながら害虫を見る目でスマホを見てるかのこに聞く。
「え?アグちゃん?」
「お婆ちゃんもスマホを持つならお揃いにしたいなぁ」
この言葉の破壊力と言ったらなかった。
契約を済ませて合流した雲平とあんこは目を丸くした。
金太郎が持つ3つの携帯ショップの豪華な紙袋。
そして手を繋いでニコニコと歩くアグリとかのこ。
「アグちゃん、お写真撮らせて。こうだったかしら?バニエさん?」
「…そこを指でシュッとやってください」
「ああ!カメラのマークね!出たわ!アグちゃん!お写真撮るわね!」
「うん!私のではお婆ちゃんと2人で撮りたいよ!その後で皆で撮ろう!」
かのことアグリはニコニコと写真を撮り合うと、「アチャンメちゃん!キャメラルちゃん!セムラちゃんもあんこちゃんも来なさい!」と言って呼んで、「自慢の孫だわぁ〜」と言って写真を撮って怖い顔で、「金太郎、現像してきて。あと額装もしなさい」と言う。
その顔はキレた雲平に近い。
ゲッソリとした顔で「マジかよ」と言う金太郎に、「は?早くしなさい!」と言うかのこ。
その姿を見ながら雲平がアグリに、「アグリ?ばあちゃんにスマホ買ったの?」と聞くと、アグリはニコニコと「うん!後でショップのお姉さんが、家だとスマホがお金かかるから家用の機械も買った方が良いって!教えてくれたの!コンセントに刺すだけなんだよ!」と言った。
「え?ばあちゃんが買うって?」
「うん!たくさんの写真を送るのにお金かかるから、その機械があれば毎月の決まったお金だけで済むんだって!」
雲平はあのヘラヘラしたセールスレディの泣き顔を忘れていない。
そして般若のようなかのこの顔も忘れていない。
それなのにスマホを持って菩薩のような微笑みを浮かべるかのこを見てから、アグリに「どうしてばあちゃんまでスマホ持ってるの?」と聞くと、「お婆ちゃんとお揃いのスマホが欲しかったし、お婆ちゃんのスマホに沢山私たちの写真を入れてもらいたくてお願いしたんだぁ〜」と言って、アグリが「お婆ちゃん!お母さんと3人のお写真撮ろうよ!」と言ってかのこの元に飛んでいく。
「あらあら、イイわね。瓜子さん。撮るわよ」
「はいお義母さん」
こんなやりとりの後は昼食に回転寿司屋を予約して、アグリやアチャンメ達は大興奮で寿司を食べる。
ホイップが「僕が取ったら他の人は食べられないよな?」と気にし始めていて、「お店ですから大丈夫よ。食べたらお金を支払いますからね」とかのこが言っていた。
とても楽しい時間。
これを見て誰がシェルガイに行こうと思っているだろうか?
「バニエさん、監視が居ますね?」
「…はい。店の中までは来ませんが施設内には居ますね」
それを聞いた雲平は、帰りにこれみよがしにセムラの横を歩いて、「セムラさん、シェルガイが気になりますよね、明日、飛鳥山公園まで行きましょう」と声をかける。
あくまで雲平達はゲートを見に行ったら巻き込まれたと言う形を取る。
それは誰にも迷惑をかけない行いだった。




