第102話 僕の仲間に手を出すな!
ホイップはこんな時でもつまらない考えが頭に出てきてしまう。
それは地球に来てからの三日間だった。
あんこの言葉があったからだろうか?
アグリやあんこよりも雲平が思い浮かぶ。
あの気迫、あの圧に殺気。
怒りに染まる雲平が殺しに来た時、あの全ての大魔法を放つ規格外の地球人を思い出した時、扉の向こうからこちらを伺う人喰い鬼の目はただの目でしかなかった。
プレッシャーも何もない。
確かに当たれば死ぬ。
それだけでそれ以外は無い。
雲平を見た時の底知れない恐怖は無かった。
「あんこ…、雲平は来るよね?」
「来るよ。それまで私…が……守るからね?」
「ううん。僕が守る。あんこは家族で仲間で、お肉屋さん達もかのこお婆様の仲間だから僕が守る」
ホイップは震えてなかった。
立ち上がると前に出てアイスウェイブで人喰い鬼を後退りさせると、即座に体育館と人喰い鬼の間にアイスウォールを張る。
突如目の前に現れた氷の壁を人喰い鬼は殴るがビクともしない。
「…な…なんだ。弱体化するのか?これなら」
ホイップはホッとしたが、それは勘違いでしかない。
徐々に威力を引き上げていた雲平の攻撃を防いだ経験がホイップを変えていた。
ホイップは驚きの声をあげる周囲を見て、守るべき人達を確認してからあんこやかのこを見る。
あんこは泣いていた。
安堵の涙を見た時にやる事が見えた気がした。
「外の人!動けますか?来れますか?」
警官隊は足を引きずって仲間を背負って何とか体育館を目指す。
だがとても遅くて、動ける事に気付いた別の人喰い鬼が警官隊を狙う。
手が足りない。
足止めが必要だ。
その時、スェイリィのところで見た雲平とアグリの氷結結界の必要性に気付いた。
氷結結界自体は雲平とアグリのモノを見たから何となくわかる。
練習もさせられた。
だがわかると撃てるは別物で、「やれる…か?やれない…か?僕じゃ…」と呟くが、目の前の警官隊はすぐにでも殺されそうで、背後からは小さな子供の「お巡りさんが!」、「お兄さん助けて!」といった声が聞こえてくる。
そのお兄さんが自分を指していた事に気付くのに時間がかかったが、「僕の仲間に手を出すな!氷結結界!」と言うと、警官隊を狙っていた人喰い鬼は凍り付いた。
「今のうちです!早く!」
警官隊は涙ながらに「ありがとう」と言って体育館に逃げ込むと、中の老人からは「坊主!背後からも来るぞ!」と聞こえてくる。
ホイップは泣き言を言いたかったがそんな暇はなかった。
体育館の真ん中に戻りながらあんこに、「すまない。僕の側で周囲の警戒を頼めるかな?破られそうなアイスウォールがあれば教えて」と言う。
「うん!頑張るね!」と言ったあんこは張り切って立ち上がり、かのこは「ホイップくん。今日はお祝いね。これだけの人を助けるなんて自慢の孫よ。早く帰ってご馳走を作りましょうね」と言っている。
「お婆様?お祝いですか?」
「そうですよ。ありがとう。ホイップくんが頑張ってくれてるから、お婆ちゃん何も怖くないわ」
ホイップは喜びに震えると「任せてください!」と言ってアイスウォールを張った
・・・
その後はあんこの活躍はほぼ無かった。
子供達の「お兄さん!」、「頑張って!」の声援に、老人達の「凄いぞ坊主!」、「頼んだ!」、「頑張れ!」の声に力を貰ったホイップは、王子の顔で「皆は心穏やかに過ごしてください!僕が防ぎます!」と言うと、最後には体育館を覆うアイスウォールで人喰い鬼の攻撃も、ザリガッソウの震える爪による切断攻撃も防ぎ切る。
長時間の防衛に、あんこが「ホイップくん大丈夫?」と声をかけると、ホイップは「うん。雲平の攻撃に比べたら弱いし怖くない」と返して微笑む。
「凄いねぇ。でも自衛隊は何やってるんだろう?疲れちゃうよね?」
あんこはプリプリと怒りながら周りを見た時に、スマホにアグリの自撮り風の写メが届き、「お兄ちゃんが、こう言う時は「上空なう」って教えてくれたよ」とメッセージが添えられる。
「え?雲平?」と言った時にはありえない量の落雷。外をウロつく魔物達は皆ケシズミになる。
「落雷…、サンダーデストラクション?雲平?」
「うん!今来たって!」
「助かったぁぁ…」
ホイップが安堵と共に腰を抜かして、あんこに「ふふ。ありがとう」と言われて、周りが「助かった」、「ありがとう!」と声援を送り、ホイップは真っ赤に照れていて「いや、僕は守ることしか出来なかった」と言いながら降りてこない雲平達を気にした時、あんこの元には「お兄ちゃんが中学校と高校にも魔物がいるって言ってる、倒してくるね」とメッセージが入ってきて直後に落雷の音がした。
5分して体育館に来た雲平は、1番にホイップの前に立つと「よくやってくれたね。ありがとう。見込んだ通りだったよ」と声をかけた。
ホイップは首を横に振って「人喰い鬼とザリガッソウが弱体化してくれてたから、なんとかなったんだ」と返すと、人喰い鬼の返り血でベタベタのアチャンメとキャメラルに、「はぁ?弱体化?気のせいだッツーノ!普通に面倒臭え相手だったぜ?」、「襲われてる学校のどれにアンコ達が居るのかわからねえから、二手に分かれてたら上からズドンだ」と言って、「クモヒラ、褒めてくれ!」「クモヒラの妹は偉いだろ!」と言いながら雲平に抱き付く。
「うん。助かっちゃった。父さんと母さんは?父さん死んだ?」
「生きてるって」
「本庁でバニエと一緒に足止めしてきたパーを見つけるってよ」
アグリが「足止め」と聞き返して、セムラは「グラニュー」と怖い顔で猪苗代湖で雲平を足止めしたグラニューを思い出していた。
「んー。アグリ、母さんに『こっちは無事、帰ってくるの待ってる』ってメッセージ送っておいて」
「うん!」
「雲平さん、待つのですか?」
「まあ父さん帰ってくるまでは待ちます。とりあえず猪苗代湖からココまで飛ぶのは疲れました。途中シュザークの力で加速する為にゲートの近くを飛んだから余計疲れたけど、セムラさんが力を流してくれたから早く帰ってこれました」
これには「雲平、猪苗代湖から飛んできたの!?」とあんこが聞き返す。
「うん。グラニューがゴネて車出さないからムカついて飛んできたよ。とりあえずお腹空いたから帰ろうよ」
そう言った雲平は、かのことあんことあんこの母を見て「ホイップくんは当てになったでしょ?」と言って笑う。
「ええ、雲ちゃんの言う通り、ホイップくんのお陰でお婆ちゃんは何も怖く無かったわ」
「本当だよ。怖くて震える私の代わりに皆を守ってくれたんだよ!」
「いやぁ」と照れるホイップだったが、雲平が「え?」と聞き返すと、あんこが「お巡りさんも殺されかけてもうダメだ!って思った時にホイップくんが立ち上がってくれたんだよ!」とホイップを売り込むように話す。
「何やれるのにグズグズしてたの?お巡りさん大怪我じゃん」
そう言う雲平の顔は怖い。
「あー、クモヒラキレそう」
「姫様ー、腕だ。腕を差し出してくれ」
アチャンメとキャメラルが雲平の代わりになって、ホイップに「おせーんだよ。次はサッサと動け」、「やれば出来るんだから出し惜しみスンナ」と言って頭を小突く。
かのことあんこに「お婆ちゃん!本庁から走ったら疲れたぞ!」「アンコ!ビャルゴゥとスェイリィの服をご褒美で買ってクレ!」と言って前に出ると、かのこは「本庁から?それで戦ってくれたの?まぁぁ!凄いわぁ!自慢の孫よ!」と褒めちぎり、あんこは「お母さん、2人にポチっていい?」と聞いた。




