ハロー女神様
あれ、夢だ。
そう思うのは、目の前に座ってお茶を飲む女性の背中に、羽が生えていたからだった。白鳥とかじゃなくって、雀とかそういう、可愛い感じの羽だ。鶯みたいな渋い緑色で、小ぶりで可愛い。小さな斑点があって、それもそばかすみたいにキュートである。
『ーー本当に大変なのよ』
「そーですかぁ」
どういう会話かよく分からないながらも、適当に相づちを打つ。
『こう、ごしごしっとね。力を入れて洗わないといけないわけ。いえ、本当にあなたたちがしているような、板を使って洗濯をしているわけではないのよ? でもたとえると、そうなるの。なかなか落ちない汚れを一生懸命こすって落とすの。でもね、それでもなかなか落ちない、それはひどい汚れの魂もあって』
「へぇ」
『たとえるなら、そうねぇ。強力な漂白剤に浸けるみたいな感じね。バケツに漂白剤を溜めて、それに浸け置きしておくの。しつこい汚れも何回か漂白剤を使えば落ちるんだけど、これがどうやら当人にとっては、ひどい苦しみみたいなのね。だから地獄っていう概念が生まれたんだと思うけど』
「へぇぇ。お洗濯も大変ですねぇ」
『そうなのよ。それでね、たまに凝った布地の魂がくるの』
「こった?」
『そう。あなたみたいに、装飾が多くってレースみたいに繊細で、丁寧に手洗いしないと破けちゃうような魂。乱暴に洗うと破けちゃうけど、でも汚れていたらそうも言っていられないでしょう? 汚れている場合はすぐに漂白剤に浸け込んじゃうんだけど。でも、そうでもなくて、そこそこ綺麗だったら、あなたどうする?』
装飾過多の、そんなに汚れていない服をどう洗濯するか。
「えぇと……むしろ洗わない、かも? ささっと水洗いで済ませちゃうかもしれないですね?」
『そうでしょ! そうするわよねぇ。だから、そうなのよ』
「えぇと?」
だから、なにがそうなんだろうか。
『だから、あなたも水洗いだけで転生させたの。そんなわけであなた、前世の記憶があるのよ』
「…………。つまり、装飾過多だった……?」
『あなたの場合、頑丈だったけれど、やっぱり色んなところがひらひらしていたもの。洗いにくいって一瞬で分かったわ』
「なるほど……?」
『でもね、そもそも汚れてる魂だったらそういうことはしないから。浸け込んじゃうもの』
「や、やったー……?」
『ちょっと不便かもしれないけど、そういうことだからよろしくね?』
「えぇと、はい」
返事をした途端、羽根つき女性の姿が消えていって……目が覚めた。
「……なんじゃそら」
ちょっと待ってプリーズ。なんの夢あれ。布地を魂にたとえてたからつまり魂の問題だとは思うけど、つまり装飾過多の普通じゃない魂だから水洗いだったってことでは。それってつまり……腐女子だったことと関係あるんでしょうか。ないんでしょうか。どっちでしょうか女神様!?
これって聞きようによっては、清らかな変態だったから記憶そのままで転生させましたっていう風にも聞こえるんですけど! なんだよ清らかな変態って!! そりゃ聖職者になれそうな身体的特徴というか、成長過程だったかもしれんけど、正直中身の方は聖職者には全く不向きなメンタルだったんですけど!? 愛? 愛があればこそのあれやこれやの妄想なら清らか判定だってこと!?
判定ザルじゃん!!
しかも翌日、ママとの訓練で洗濯嫌いの洗濯女神様宛に魔力送ってみたら、成功しちゃったし。
「さすがあたしの娘。天才」
「いやぁ……」
女神様が洗濯担当女子って、誰が思うよ。そりゃなかなか魔法発動できねーですわ。夢の話なんで、全部私の妄想かもしれんけどね。