腐士道とは
そもそも腐士道とはなんぞや。
腐士道とは死ぬ推しを愛でることと見つけたりーーじゃないけど、まぁ武士道が始まりである。日本史とBLの親和性はめちゃくちゃ高いのだ。キリスト教みたいな禁忌感がないのがいいのか、むしろ男女の関係よりも崇高で、高尚なものと見なされていたのがよかったのか。……明治時代になるまでは。
室町時代の世阿弥も、将軍足利義満とどうこうとかあったよね……織田信長と蘭丸なんて鉄板だし、若衆歌舞伎なんてターゲットは旦那である。マダムじゃない。風紀が乱れるから禁止になったくらいだし。
一つ気になるのが、平安末期の悪左府こと藤原頼長である。彼は攻め君だったのだろうか? それとも受け君……?
悪左府はさておき、基本的に日本のBLは少年側が受け君である。そう、ショタ受けだ。未成熟な少年の美を愛でる、耽美かつ刹那の美を愛でる世界観だったのである。そう、侘び寂びBLである。だが、時は二十一世紀。20XX年。腐士道は滅亡の危機にあった。なんとなれば、その少年受けこそが原因である。
ーーそれって性的児童虐待じゃね?
そう、成人前の少年少女を性愛の対象にすることを禁じる常識が、我々の前に立ちはだかったのである。R18という壁である。それを突破すべく最年少の十八歳男子を思い描いていただきたい。十八歳の男子なんてもうほぼほぼ大人じゃん。昔で言ったらとっくに元服して前髪落とし、つるっつるのちょんまげに結ってる年齢である。そんなん受け君やない。ただの攻め君である。受け君の絶滅した世界に連れてこられた腐士道界隈は絶望した……!
だが、どこの界隈にも天才はいる。
一人の天才が、とある理論を提唱したのである。すなわち『相対性華奢受け理論』である!
この理論によれば、細マッチョと少年であれば少年が受け君になる。だが細マッチョとゴリマッチョが並んだ時、細マッチョは受け君になり得るのである……!
腐士道万歳! 我々は生き延びたのだ……!!
つまりこの理論でいえば、悪左府こと頼長殿だって、どっちでもいけるんである。腐士道は左右固定派であるので、この場合、頼長殿はずっと受け君であったと思えば滾る。彼はそりゃ色々豪腕な政治手腕の方だったらしく、その豪腕が原因で敗残者ともなってしまう方なのだが、ここで想像してほしい。そう、魔性の受け君である。
特に本命を作らず、逆ハーを形成する魔性の受け君こと頼長殿。相対性華奢受け理論により、攻め君より華奢な体格であれば、彼の魔性受けはいくつになろうと成立するのだ。相対性理論万歳! 陰謀ばっちこいな性悪魔性の受け君万歳! 保元の乱で戦死したというのは世を忍ぶ仮の姿で、どっかの攻め君に監禁溺愛されてていただきたい! 誰か二次創作書いてくれ!
台記ーー頼長殿の書いていた赤裸々なBL日記ーーで彼はたいてい攻めだった? 聞こえんなぁ!
「ーーリタ? ぼーっとしてるみたいだし、そろそろ帰るね?」
「っっっ!? いや、全然ぼーっとしてない!」
「まだ疲れてるんだよ。ごめんね、どうしても謝りたくって。しゃべれて、よかった」
「いや、いやいやいやリリアン。もうちょっとおしゃべりしよう?」
「だぁめ。ちゃんと寝てなさい」
お姉さんぶった顔で、めっと言ってからリリアンが立ち上がる。そんな、ご無体な。ちょっと悪左府殿で妄想して滾ってたからって捨てないで!
「ねっ、ちょっと相対性理論についておしゃべりしようっ?」
「そうたい……? よく分かんないけど、また今度ね」
にこっと微笑むお顔は非常に美少女ですが、私はオタ友を作りたい。
「リリアンってば!」
「また明日ね!」
爽やかな顔で手を振るリリアンを見て、私は悟った。駄目だこれ。この爽やかさ、腐属性じゃない。もっとこう……濁った笑みが我々には相応しい。彼女、向いてないと思う。この界隈に。
我々腐女子はカミングアウトに関して、非常に慎重である。だって下手すれば変態見る目で見られるもん。同じ血の匂いをかぎ分けるセンサーによると、彼女は残念ながら適正なしである。……しょうがない。前世でもオタ友いなかったし、今世でも一人で滾るか。