恐怖の食堂
夕食は、それはもう一年生平民でぎゅっと固まった。入り口のすぐ近くだが、すぐ近く過ぎて見えにくいという絶妙な場所をひょろっとジャックが見つけ出し、そこに五人全員で固まってひっそりと食事をとったのだ。五人というからにはユージーンも一緒。今は死属性がどうのというよりも、上級生怖い貴族怖いという恐怖にみんなの心が一つになっていた。
私? 私だって怖いさ。だって貴族だよ。腐属性魔法使いの庶子なんていらんって暗殺してくる貴族だよ! 恐怖しかないですわ。
「案外お前も普通だったんだな」
静かに、だが最速で食事を咀嚼していると、そうジョンが囁いてきた。
「僕を何者だと思ってるのさ」
「だってあのこっええカニンガム夫人にも普通に話してたからさ」
「夫人は優しそうな人じゃないか」
「え、あれで?」
なんだいジョン。夫人の涙もろさ、君は気づいてなかったのかい。そう思いつつも、咀嚼最優先なので会話は必要最小限である。みんなの口も小刻みに動いている。あっ、ユージーンが舌を噛んだみたいで痛そうにしている。
「ジーン、大丈夫?」
「だ、大丈夫」
ちょっと涙目になりつつも、一刻も早く退出するために再び口を動かし始める。
というのも。
「…………」
「…………」
「…………」
めっちゃめちゃ見られている。いや、顔がこっちに固定された凝視じゃないんだけど、目の端視界の隅で認知され続けているのがすごくよく分かる。それぞれ世間話をしているのだろうが、こちらを観察してくる気配というものがものすっごく伝わってくるのだ。かといって話しかけられるわけでもない。ただひたすらちらちらと観察されているこの落ち着かなさ。
「ご、ごちそうさまっ」
食前食後は女神様への感謝の祈りを捧げるのだけども、それを短縮した手の仕草で表し、すかさずトレーを持ち上げる。みんなが食べ終わったのを確認した直後である。タイミングの見計らい方がジャックはガチである。
「ごちそうさまっ」
ジャックの後に続き、トレーを食堂の入り口横の受け渡し口に持っていく。なんかこれも身分に従って決まりがあるらしい。貴族はそのままでよくて給仕が下げに行くとか。でも平民が覚えることはただ一つ。自分のことは自分でやれ。以上!
食堂を出てホールにまで帰ってくると、みんなの足取りがゆっくりになった。ホールより食堂側に階段があるから、階段からこっちは平民ゾーンってことだと思う。
「よぉ一年生。頑張ったな」
他の学年なんだろう。体格の大きな男子達が苦笑しながらジャックとかの肩を叩いて歩いて行く。大柄だから、コンパスが違う……!
「今年の一年は属性あんななのに、なかなかの団結力だな」
「五人もいるなんて、今年は豊作だよな。人数が多いからかな」
一緒に歩み去るもう一人の生徒がそう言っていた。私たちじゃなくて、片割れにそう言ったみたいだ。
……確かに。同じ属性いないよね。
見渡した髪色の違いにしみじみしていると、ユージーンがふふっと笑った。
「リオン君のおかげだね」
「んー?」
私のおかげ?
「それは言い過ぎだろ」
そう言いながら、ちょっとためらったようにユージーンの肩にこつん、と軽く触れるジャック。
「態度がでかいだけだろ、こいつ」
私の肩をこつんと、予想外に優しい拳をぶつけてくるジョン。
「毎日こんな風に早食いしなきゃいけないのかなぁ」
そう、情けなさそうに嘆くカールのマイペースさ。
「飯の話かよ」
ぷはっとジョンが笑い、それにつられてみんなでしのび笑う。ユージーンまでくすくす笑ってるので、カールへの好感度が爆上がりしたのだった。




