69 遺された言葉
修一は、自ら命を絶つことを選んでいた。彼の遺書は、誰か特定の人物に宛てたというよりも、自分自身に言い聞かせるように綴られたものだった。そこには、深い悲しみと、絶望的な諦念が滲んでいた。
彼が死を選んだ理由は、ただ一つ。自分が愛した女性を守ることができなかったという、拭い去れない無力感と自己嫌悪からだった。
最初の恋人である月美は、修一の目の前で自死を選んだ。そして、次に心から愛した葵は、彼のもとを去っていった。
愛する人を守るために、彼は常に自身の感情を殺し、相手の全てを受け入れるという形で尽くしてきた。それが、彼が信じていた唯一の愛し方だった。しかし、その守り方が、もはや現実とずれており、大切な人の心を繋ぎとめることができないという事実に気づかされた時、修一は完全に打ちのめされた。
「俺ではダメなんだ…」
その言葉が、修一の心の奥底に深く突き刺さっていたのだろう。彼は、自身の存在そのものが、愛する人たちを不幸にするのではないかという、根源的な絶望に囚われていた。そして、遺書の最後の言葉は、彼の最期の願いを綴っていた。
「守れなかった自分が言うのも憚られるが、葵には必ず幸せになってほしい」
その言葉は、自ら命を絶つ直前まで、修一の心が葵の幸せだけを願っていたことを示していた。彼が抱えていた痛みの深さと、それでも葵を愛し続けた無償の心が、その遺書には刻まれていたのだ。




