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65 崩れゆく心

 翌日、希穂は葵のことが心配でたまらず、彼女の実家を訪れた。葵はまだ、修一の死の衝撃から立ち直れずにいた。その顔は憔悴しきり、瞳の奥には深い絶望が宿っている。


 希穂は、葵の傍らにそっと座り、言葉を選びながら、自分が知り得た修一の遺書の内容を詳しく伝え始めた。それは、葵が最も知りたがっているであろう、また同時に、最も恐れているであろう真実だった。


 遺書には、修一がどれほど葵を愛していたか、彼女と過ごした日々がどれほど彼にとっての光であったかが綴られていたという。月美を失った後の絶望の中で、葵との出会いが彼に再び生きる意味を与えてくれたこと。しかし、自身の過去、そしてその因縁が葵に及ぼすかもしれない影を恐れ、彼の内側で静かに葛藤が続いていたこと。


 そして、遺書の最後は、たった一言、修一の葵への深い愛が凝縮された言葉で締めくくられていた。

 「最後は、『葵には幸せになってほしい』で終わっていたらしいよ」


 希穂の声は、その言葉を伝えるうちに震え、涙に潤んでいた。


 それなりの覚悟を持って聞いていたはずだった。修一がどれほど自分を愛していたか、彼がどれほどの苦悩を抱えていたか、葵なりに理解しようと努めてきた。しかし、彼の言葉、彼の魂の叫びに改めて触れた瞬間、葵の心は完全に打ち砕かれた。そこに、涙はなかった。 言葉もなかった。 何も、存在しなかった。ただ、広大な虚無だけが、葵の意識を支配していた。全身から力が抜け落ち、呼吸さえも忘れ去られたかのようだ。修一の死が、そして彼の遺した無償の愛の重みが、葵の存在そのものを消し去ろうとするかのようだった。

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