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55 静かな予感
修一は、最近の葵の態度に小さな違和感を感じ始めていた。二人の穏やかな会話の最中、ふとした瞬間に、葵の視線がどこか遠くへさまようことがある。まるで、彼の隣にいながら、心が別の場所にいるかのように。
また、以前に比べて、スマートフォンに目をやる回数が明らかに増えたような気がした。メッセージの通知を待っているのか、誰かからの連絡を気にしているのか。施設の話も最近はしない。修一はそれを直接問いただすことはしなかったが、彼の心には、さざ波のような不安が広がっていた。
『気にしすぎだな…』
修一は、そう自分に言い聞かせる。しかし、一度抱いた疑念は、なかなか消えなかった。彼は葵を心から愛しており、彼女の些細な変化にも敏感だった。
『葵…』
心の中で、愛しい人の名を呼ぶ。その声には、彼の内なる静かな予感と、それを確かめることへの恐れがにじんでいた。確かめることは彼女を信用していないということだ。彼は、葵の幸せを何よりも願っていたからこそ、この変化の先に何があるのかを知ることを躊躇していたのだ。




