51 もう一歩先の愛
『修一さんはいつもどんな話も優しく頷いて聞いてくれる。決して否定しない。常に私の味方でいてくれる。それは愛とわかっている。でも…』
葵は、心の中でその言葉を繰り返した。修一の愛は、まさに親が子を思うような、深く、無条件の優しさに満ちていた。あの、すべてに絶望し、人との関わりを拒絶していた日々。その淵にいた葵にとって、彼のその愛は、何よりも必要な救いだった。包み込むような彼の温かさがあったからこそ、葵は再び呼吸することを思い出し、少しずつ光の方へと歩み始めることができた。
しかし、心が回復し、少しずつ外の世界に目を向け始めた今の葵には、変化が訪れていた。障がい者施設での出会い、特に幸樹との会話が、彼女の内なる情熱を刺激し、かつてのアナウンサーとしての自分を思い出させた。
もう、ただ守られているだけでは物足りなくなっていたのだ。時には感情をさらけ出し、ぶつかり合い、深く思考を刺激し合うような関係。意見を交換し、互いの内面を深く掘り下げていくような、精神的な高みでの繋がりが欲しくなっていた。修一の優しい頷きだけでは満たされない、新たな欲求が葵の心の中で芽生え始めていた。
この時点で、葵はまだ知る由もなかった。自分が感じているこの「物足りなさ」や「息苦しさ」の奥底には、修一が抱える月美の死という深い傷と、彼が守ろうとする「過去」が複雑に絡み合っていることを。そして、その過去が、まさに彼女の心を揺さぶる幸樹と、避けがたい因縁で結びついていることを。




