4 剥がれ落ちる愛情
賢吾の言葉は、葵の心を深く抉った。彼の瞳に映るものが、もうかつてのような愛情ではないことを、嫌というほど突きつけられた。
彼にとって、沢村葵は「完璧なアナウンサー」であり、誰しもが羨む容姿と知性を持つ「選ばれた女性」だったのだ。世間から注目される彼女を独り占めし、「俺だけが全てを知っている」という優越感こそが、賢吾の肥大化した虚栄心を満たしていた。
だからこそ、彼は葵の「外面」を磨く努力を惜しまなかった。高級なレストランでの食事、ブランド物のプレゼント、彼にとっては「自分のトロフィー」を輝かせるための投資でしかなかったのだ。
それが、あの盗撮動画によって、音を立てて崩れ去った。賢吾が独占していたはずの「沢村葵の完璧な美しさ」が、最も醜い形で、不特定多数の目に晒された。彼の独占欲は打ち砕かれ、今まで感じていた優越感は、屈辱と嘲笑へと変貌した。その瞬間、葵に対する彼の感情は、急速に冷めていったのだ。
賢吾の言葉の端々から、葵はそれを痛いほど感じ取った。彼はもう、傷ついた葵を心配しているのではない。自分のプライドが傷つけられ、自身の評価が下がることを恐れているのだ。その事実に、葵は言いようのない絶望と、深い孤独を感じた。
「そうだったの…」
葵は、それ以上何も言えなかった。賢吾の隣にいることが、これほど苦しいと感じたのは初めてだった。彼女の完璧な世界が崩れると同時に、最も信頼していたはずの人間関係までもが、剥がれ落ちていった。