47 沈黙の意味 それぞれの思い
葵が幸樹の話を終えると、修一はいつもとは違い、すぐには言葉を発しなかった。彼の表情はいつもの穏やかさの中に、何かを深く考えているような、あるいは戸惑っているような複雑な色を帯びていた。そして、そのまましばらくの間、黙り込んだ。
その修一の沈黙を、葵は注意深く見つめていた。そして、その沈黙の意味を、自分にとって都合の良いように解釈し始める。
『そうそう、それなのよ、修一さん』
葵の心の中では、小さく、しかし確かな喜びが芽生えていた。この沈黙は、彼女に対する嫉妬ではないだろうか。他の男性の話題を、自分が熱心に語ったことに対する、微かな動揺。これまで感じていた「物足りなさ」が、この沈黙によって少しだけ満たされたような気がした。
修一の優しさは、時に彼が感情を強く表に出さないことの表れでもあった。しかし今の葵は、彼のその抑制された感情の中に、自分への特別な思いを見出そうとしていた。それは、彼女が心の奥底で求めていた、確かな愛情の証のように感じられたのだ。
葵が幸樹との会話を弾ませ、彼の口から出た「償い」という言葉に感銘を受けているのを、修一は穏やかに聞いていた。そして、葵が彼の外見や年齢的な印象を語り、その「遠山」という名を聞いた時、修一の表情から一瞬、すべての色が消えた。
葵は、その修一の沈黙を、自分への嫉妬と捉え、密かに喜んでいた。『そうそう、それなのよ、修一さん』と、心の中で呟いていた彼女は、修一の瞳の奥で瞬時に起こった変化に気づくことはなかった。
しかし、この時、修一の頭の中では、まるで雷が落ちたかのような、いやそんな生やさしいものではない衝撃が走っていたのだ。彼は「遠山」が何者かを悟った。その名前、そして「若い頃に人に迷惑をかけた」「償い」という言葉。それは、修一の人生を永遠に変えた、あの忌まわしい過去へと繋がる、決して忘れることのできない人物の記憶を呼び覚ました。
沈黙は、決して嫉妬からくるものではなかった。それは、予想だにしなかった再会への戸惑い、そして、葵の知らないところで、過去の影が忍び寄ってきていることへの、深い衝撃と警戒心からくるものだったのだ。




