44 施設での出会い
施設での見学中、葵は彼らが懸命に取り組む姿に心を打たれていた。『私なんかより、ずっと、より厳しい状況で…』その思いが、葵の心に温かい光を灯していく。
そんな中、障がい者たちの作業を見守っていた葵の側へ、支援者の一人らしき若い男性が近づいてきた。彼は、穏やかな笑顔を浮かべ、優しい声で葵に語りかけた。
「こんにちは…」
首からぶら下がったIDカードには、「運営ボランティア 遠山幸樹」と記されてあった。
施設を訪れるたびに、葵の視界にはいつも、支援者として彼らを献身的にサポートする幸樹の姿が入っていた。車椅子を押したり、手を貸して移動を助けたり、あるいは優しく言葉をかけながら作業を見守ったり。彼の真摯な姿勢は、以前から葵の目に留まっていたが、実際に言葉を交わし、その名前を知ったのは今日が初めてだった。葵は、この場所で懸命に生きる人々だけでなく、彼らを支える幸樹のような存在にも、深く心を動かされている自分に気づいた。
それ以降、葵が施設を訪問するたびに、幸樹との間に会話が交わされるようになった。彼は、障がい者たち一人ひとりに真摯に向き合い、彼らの小さな成功を心から喜び、時には彼らの困難に共に寄り添う。そんな彼の姿勢に、葵は深く感銘を受けていた。
幸樹は、自身のこの仕事への思いを、葵に率直に語ってくれた。
「きっかけは、若い頃に人に色々と迷惑をかけたことがありまして…その償いというかなんというか、そんな感じでここを手伝うようになったんです」
彼の言葉に、葵は驚きを覚えた。あの穏やかそうな幸樹が、そんな過去を持っていたとは。しかし、その後に続く言葉は、葵の心をさらに引きつけた。
「でも、今となっては、生きがいに感じています。彼らと接することで、人として大切なこと、感謝の気持ち、そして何よりも、諦めない強さを日々教えてもらってますから」
彼の言葉には、表面的な偽りや同情ではなく、人間としての深い洞察と、真の喜びが宿っていた。障がい者に対する彼の純粋な思い、そして自身の過去と向き合い、それを乗り越えようとする姿勢は、葵にとって、しばらく忘れていた「刺激」に触れる機会となっていた。
幸樹との交流は、葵の視野を広げ、心の奥深くに新たな感情を呼び起こしていく。それは、修一との間で感じていた穏やかな安堵感とはまた異なる、内側から湧き上がるような、前向きな衝動だった。




