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39 お見合いの日

 約束の日が来た。葵は、どこか現実感のないまま、指定されたホテルの一室へと向かった。家族の期待を背負い、そして修一の優しい「大丈夫だよ」の言葉を胸に、葵は新たな出会いの場に足を踏み入れた。

 「初めまして、葵さん。川島秀明です」


 そう言って立ち上がった男性は、父親が勧めてきただけあって、その第一印象は極めて好印象だった。容姿は決して特筆して目を引くような「容姿端麗」ではないが、清潔感があり、知的な雰囲気を纏っている。何よりも、その立ち振る舞いは紳士的で、会話の内容も穏やかでありながら論理的で、確かな知性と教養を感じさせた。


 秀明は、葵の父親と同じ大手企業に勤めるだけあって、仕事に対する真摯な姿勢や、将来への明確なビジョンを垣間見せた。彼の言葉には、安定と堅実さが滲み出ており、まさに絵に描いたような「優良物件」だった。

 『もし、あんなことがなければ…』


 葵は、思わずそう考えてしまった。もし、自分が盗撮被害に遭い、人間不信に陥ることもなく、賢吾に裏切られることもなく、そして修一と出会っていなければ、目の前のこの男性に、純粋な興味を抱いたかもしれない。秀明は、修一とはまた違った種類の魅力を持っている。修一の包み込むような温かさとは異なる、社会的な信頼感と、安定した未来を予感させる魅力だ。


 しかし、今の葵の心は、修一への揺るぎない思いと、過去の傷に囚われている。目の前の秀明の魅力は理解できるものの、どこか第三者的に彼を見ていた。





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