38 事前の打ち明け
家族との約束の日が迫るにつれて、葵の胸中はより複雑になっていった。川島秀明という、父親が選んだ男性に会うこと。それは、修一との関係を家族に認めてもらうための、苦肉の策だった。しかし、この事実を修一に隠したまま進めることは、葵にはできなかった。
いつもの公園のベンチ。柔らかな日差しの下、葵は意を決して修一に告げた。
「あのね、修一さん…実は、家族が、私に他の人を紹介したいって…」
言葉を選びながら、葵は家族の焦燥と、自分が彼らをこれ以上刺激したくないという思いを正直に伝えた。そして、本心では気乗りしないが、あくまで「時間を稼ぐため」に会うことを承諾したのだと、その意図も懸命に説明した。
修一は、葵の話を遮ることなく、ただ静かに耳を傾けていた。彼自身、過去が知られて以降、葵の家族に快く思われていないことは、十分に感じ取っていたのだろう。葵の言葉の端々から伝わる苦悩と、それでも自分との関係を守ろうとする彼女の気持ちを、彼は痛いほど理解していた。
葵が話している間、修一は何も言わず、ただ優しく「うん、うん」と頷いていた。そして、不安げに見上げる葵の目をしっかりと見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ…ありがとう」
その言葉は、まるで魔法のように葵の心を解き放った。彼の深い理解と、揺るぎない信頼が、葵の胸に静かに、そして確かに広がっていく。修一の優しさが、葵の新たな試練に立ち向かう勇気を与えてくれた。




