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家族の反対は、葵にとって、新たな、そして最も避けたい試練だった。父親の厳しい言葉、母親の悲痛な眼差し。彼らが修一の過去の背景に理解を示しつつも、娘の未来を案じていることは痛いほどわかる。彼らが葵をどれほど大切に思っているか、死の淵から引き戻すためにどれほどの苦労を重ねてくれたか、葵自身が一番よく知っていた。
だからこそ、家族の言葉を無下にすることはできなかった。彼らの思いを無視するなど、今の葵には考えられないことだった。「あの頃と同じだ」と葵は思った。完璧な笑顔と間違いのない立ち居振る舞いを求められていたあの日々。家族の笑顔が見たくて、ただ言われるがままに突き進んでいた。しかし、今は同時に、修一との絆もまた、葵にとってかけがえのないものとなっていた。互いの最も深い傷を分かち合い、理解し、抱きしめ合ったばかりだ。ようやく手に入れた、この温かな場所を手放すことなど、できるはずがない。
『どうしたらいいの…』
葵の心の中で、その言葉が何度も繰り返される。家族の愛と、修一への思い。どちらも、今の葵にとって、手放すことのできない大切なものだ。二つの強い感情の狭間で、葵は激しく葛藤した。再び心の奥底で、深い苦悩が渦巻き始めていた。




