31 守れなかった光
修一の言葉は、訥々としていたが、その一言一言に重みが宿っていた。彼は語り始めた。
かつて、自分には島田月美という恋人がいたこと。彼女は、ある男にストーカー行為を受けていた。修一は、何とか話し合いで解決しようと何度も試みたが、全て無駄に終わった。警察にも相談したが、有効な手立てはなかったという。
そして、そうこうしている渦中、月美が自死を選び、命を絶ってしまったことを告げた。
「…僕は、月美を守れなかった」
修一の目には、大粒の涙が浮かんでいた。その声は、無力感にさいなまれる、深い後悔に満ちていた。愛する人を守れなかったという絶望と、決して許せないという怒り。その激しい感情の狭間で、彼は正気を失ったのだろう。
「どうしても、許せなくて…その男を、殴ってしまったんだ」
それが、彼が起こした傷害事件の真相だった。
語り終えた修一は、深く息を吐き、うつむいた。その姿は、痛みを抱え続けてきた彼の苦悩をありありと物語っていた。
葵は、修一の告白を聞きながら、ある事実に気づいていた。自分が修一に感じていたあの不思議な安堵感。まるでふわふわのベッドに包まれているような心地よさ。それは、修一が月美を失った悲しみと、守りきれなかった自分への無力感を抱えながらも、それでも人を救いたい、守りたいと願う、彼の根源的な優しさと、痛みを理解する心に起因するものだったのだ。
修一もまた、葵と同じように、理不尽な暴力と、大切な人を失うという深い傷を負っていた。そして、その傷は、互いの心に、見えない形で響き合っていたのかもしれない。