30 涙の追及
葵の問いは、震える声だったが、その響きは研ぎ澄まされた刃のように修一の胸に突き刺さった。彼がその過去を、自分に隠していたという事実。それが、今、葵の心を支配する不信感と悲しみの源だった。
「私が…私が、どんな思いで全てを話したと思ってるの…っ」
葵は、一度口を開くと、堰を切ったように言葉を続けた。声が震え、次第に嗚咽が混じる。顔を覆った手の隙間から、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
修一を責める言葉を発しながらも、葵自身が苦しくてたまらなかった。
心の中では、『本当はこんなことしたくない』という悲痛な叫びが響き渡る。彼を傷つけたいわけではない。ただ、彼が自分を信頼してくれなかったこと、過去を隠していたこと、その事実が葵の心を締め付けていた。信頼していた相手への裏切り感、そして再び訪れた孤独感が、葵の心を深くえぐり、涙は止まらなかった。
修一は、ただ黙って葵の言葉を受け止めていた。その表情は、苦痛に歪んでいた。
葵の嗚咽が混じる問いかけに、修一は顔を覆う彼女の震える手をそっと見つめていた。その表情には、深い苦痛と、そして後悔の色が滲んでいた。
「ごめん…」
ようやく絞り出したその声は、掠れていた。
「伝えないといけないとは思っていたんだ…」
修一はゆっくりと顔を上げ、涙で濡れた葵の目を見つめてまずは謝った。その時の修一の瞳は、何かを決意したかのように、揺るぎない光を宿していた。そして、彼は自身の過去について語り始めた。