28 雷鳴の衝撃
希穂からの電話を切った後も、葵はしばらく、その場に立ち尽くしていた。耳の奥では、希穂の言葉が、何度も、何度も、こだましている。
「修一さんね…数年前に、傷害事件を起こしてるみたい…」
傷害事件。その事実自体も、十分すぎるほど深刻だった。あの穏やかで、優しい修一が、誰かを傷つけるような行為をしたなど、想像すらできなかった。
しかし、今の葵にとって、その事実以上に心を深く抉ったのは、別のことだった。
『…修一さん、どうして?』
彼がその過去を、自分に打ち明けてくれなかったということ。それが、雷に打たれた以上のショックとなって、葵の心を打ち砕いた。これまで、彼女は修一に、自身の最も深い傷と、最も醜いと思える過去をさらけ出した。関係が壊れるかもしれないという恐怖を乗り越え、すべてを打ち明けたのだ。その時、修一は何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれた。彼のその行動が、葵にとってどれほどの救いであり、信頼の証であったか。
それなのに、彼は、自分自身の過去を、彼女に隠していた。
彼の温かさ、優しさ、そして彼女を包み込むような人柄が、一瞬にして、欺瞞に満ちたものに感じられた。葵は、再び裏切られたような、深く絶望的な気持ちに襲われた。あの安堵感も、心地よさも、すべてが嘘だったのだろうか。修一への強い信頼と愛情が、今、激しい怒りと悲しみ、そして深い疑惑へと変貌しようとしていた。




