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20 静かな抱擁
うつむきながら葵の話を聞いていた修一は、葵が言葉を詰まらせ、嗚咽を漏らし始めた後も、しばらくはそのままの姿勢でいた。葵の震える肩と、こぼれ落ちる涙だけが、この場の重苦しさを物語っている。
やがて、修一はゆっくりと顔を上げた。彼の視線が、顔を覆い、激しく震える葵に注がれる。その瞳には、驚きや嫌悪ではなく、深い悲しみと、そして何よりも、途方もない優しさが宿っていた。
何かを言いかけようと、修一の唇が微かに開いた。しかし、言葉は紡がれなかった。彼はもう一度、深く沈黙する。そして、その沈黙はやがて、最も雄弁な行動へと変わった。
修一は黙って、そして優しく、葵を抱きしめた。
その腕は、強くもなく、弱くもなく、ただただ葵を包み込むように温かかった。これまで葵を苛んできた不安も、恐怖も、絶望も、その抱擁の中に溶けていくようだった。言葉にならない感情が、静かに、しかし確かに、葵の心に流れ込んでくる。それは、誰にも理解されない孤独の中で、葵がずっと求めていた、無条件の受け入れだった。