16 変化への驚き
市立公園の奥へと足を進めながら、葵は修一との会話が途切れることなく続いていることに、ふと驚きを覚えていた。それは、まるで他人事のように、客観的に自分を見つめている感覚だった。
『こうやって、普通にお話できるんだ…』
心の中で、小さな声が響く。あの絶望の淵にいた頃には、想像もできなかったことだ。人と目を合わせることも、声を聞くことも、ただただ苦痛でしかなかった。恐怖と猜疑心に苛まれ、世界が灰色に見えていたはずだ。
『昨日までは、あんなに人が怖かったのに…』
昨日の自分と、今の自分。そのあまりにも大きな隔たりに、葵は戸惑いを覚える。確かに、完璧な回復には程遠い。心の奥底には、まだ深い傷が横たわっている。しかし、修一とこうして他愛もない会話を交わし、時に心から笑えている自分がいる。その事実に、彼女自身が一番驚いていた。
それは、疑いもなく修一の人柄ゆえだろう。彼の言葉は、常に穏やかで、詮索するような棘が一切ない。まるで、相手の心を包み込むような、温かい毛布のような心地よさがあった。彼の隣にいると、これまで自分を縛り付けていた鎖が、ゆっくりと緩んでいくのを感じる。彼が、何も言わず、ただ静かに寄り添ってくれるからこそ、葵は安心して、仮面を剥がしたありのままの自分を晒すことができた。
修一の存在が、崩れかけていた葵の心を、少しずつ、しかし確実に、本来あるべき場所へと立ち直らせている。この穏やかな時間は、彼女にとって、失われた自分を取り戻すための、かけがえのないリハビリとなっていた。