12 誘い
最初の出会いから、気づけば数か月が経っていた。季節は巡り、公園の木々は新たな葉を茂らせている。葵の心もまた、修一との交流を通して、少しずつだが確実に息を吹き返していた。
そんなある日、いつものようにベンチで話していると、修一から思いがけない誘いがあった。
「隣町の市立公園、行かれたことありますか? 晴れた日にあの丘から見る景色には、本当に癒されます」
修一は、穏やかな眼差しで葵を見た。彼の声は、いつもと変わらぬ優しいトーンだったが、その誘いには、葵のどんよりとした心を少しでも晴らしてやりたいという、かすかな願いが込められているようだった。修一自身、葵のどこか憂いを帯びた、そして深い悲しみを秘めた雰囲気に、何かを感じ取っていたのかもしれない。もちろん、彼が葵の過去に起こった悲劇を知る由はない。ただ、彼女の纏う陰りが、彼にそうさせたのだ。
「よかったら、今度一緒に行きませんか?」
その言葉は、葵の閉ざされた世界に、新しい扉を開くかのように響いた。今まで、誰かと出かけるなど考えもしなかった。賢吾との関係が崩れて以来、男性と二人で過ごすことへの抵抗感は大きかった。しかし、修一に対しては、不思議と警戒心が湧かなかった。彼の存在が、もうすっかり心の拠り所となっていたからだろう。