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プロローグ:解放の瞬間
「お疲れさまでした!」
スタジオに響く声に、沢村 葵は小さく頷いた。今、担当していたニュース番組の重圧から解放された。
青白い照明の下、いくつものモニターが煌々と光を放つ中で、先ほどまで張り詰めていた空気がふわりと緩む。この、程よい緊張から解き放たれる瞬間が、葵は好きだった。
端正な顔立ちに、微かな安堵が浮かぶ。隣に座る先輩アナウンサーの堤 健太郎が、ちらりと葵に視線を送った。彼の表情には、微かな疲労と、どこか諦めにも似た色が浮かんでいたが、葵はそれに気づかないふりをした。
メイク室に戻り、クレンジングで舞台用の厚いメイクを落とす。明日は、予約しているエステサロンの日だ。肌の奥から潤いを引き出し、弛み一つない最高の状態を保つ。それは、この厳しい世界で戦い続けるための、彼女なりの武装だった。磨き抜かれた内面と外面。どちらも欠けてはならない。それが沢村葵という人間の、揺るぎない信念だった。
しかし、その完璧さの先に、何が待っているのか、彼女自身まだ知る由もなかった。