スウィートな魂
誰かの魂が落ちていた。
歩道橋を上る時、手すりの平たい部分に心臓そっくりの形をしたそれがあり、僕に『拾って』と哀願するようにこちらを見つめているのに気がついたのだ。
「君は……、誰?」
話しかけると、彼女は嬉しそうにぱかっと胸を開き、答えるかと思いきや、何もいわなかった。
そんなところに放置されてあるのが可哀想で、思わず抱き上げてしまったが、僕にはわからなかった。
魂を家に連れて帰るのは犯罪になるのだろうか? 魂とは誰かにとっての大事なものだ。そういうもののはずだ。
それを連れ帰り、できれば自分のものにしたいと思ってしまうのは、とても重たい罪になってしまうのではないだろうか?
しかし魂はその赤い唇を緩く尖らせると、僕にキスをせがむような表情をした。これは愛情表現に違いない。彼女は僕に飼われたがっている、そう思えた。
僕は辺りを用心深く見回し、彼女をズボンのポケットに入れると、連れて帰った。きっと僕は彼女を幸せにし、彼女は私に幸せをくれるだろうと思って。
ハート型の魂の飼い主となった僕は、いつの間にかすっかり可愛い女の子になっていた。
今はインスタで五万人のフォロワーを誇る人気のニューハーフちゃんだ。
きゅぴ!