表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
新しい決済システム
67/115

66 青翡翠島用先払いシステム

「待ちなさい! これって、学園祭の先払いの金券システムみたいなことを全島でやろうってこと!?」


「えっ? ……学園祭? あのろくでもないイベントに行ったことあるんですか?」

「ありはするけど……。なんで、学園祭の部分に反応するの?」


「学院にも学園祭はあったんですが、いいかげんなパネル展示で逃げ切った立場なのでいい思い出がないんです。模擬店なんて面倒じゃないですか」


「そなたの経験はどうでもよいじゃろ」

 リルリルが話がそれるのを戻してくれた。


「金券システムというのは言いえて妙ですね。そういうことです。名称は【青翡翠島用先払いシステム】とでもしておきましょうか」


 もうエメリーヌさんはもう理解してるだろうけど、念のため説明を続ける。


「利用者は店舗でお金を払ってカードに同額の入金を行います。あとはカードだけ持ち歩けば入金分の買い物ができるというわけですね。多めに入金しておけば、ちょっとした買い物ならカード一枚持っていけば済みます」


「あっ! ああっ!」

 ナーティアが高い声を上げた。


「もしかして、これってわたくしがお金でご迷惑をおかけしたことが引き金になってますの?」

「勘がいいですね。でも、当てつけで作ったわけじゃないですからね?」

 ここは強調しておかないと嫌な奴になってしまうからな。私はいい奴ではないけど、嫌な奴でもない。


「このシステムが広まればナーティアもカード一枚持っていけばそれで支払いができるでしょう? 小銭をじゃらじゃらさせる必要もありませんし。カード一枚でスマート決済! これは無粋の逆ではありませんか?」


「なんか、宣伝みたいな口上ね」と冷めた顔でエメリーヌさんが言った。

 たしかに商売人っぽすぎると自分でも感じた。

 工房の主なんだから、モロに商売人だけど。


「すごいとは思う。じゃが……」

 リルリルの尻尾が左右にぶんぶん動いている。不穏だと感じたのか、少し気が立っているらしい。お金が絡むことだから危ないと思うのは正しい。


「これ、危なっかしくはないか?」

「話を聞きましょう。具体的にどのへんが?」


「木札への入金自体は実際のお金がなくても可能じゃろ。その小箱にお金を入れた分しか木札に入金できぬわけではないはずじゃ」

「ですね。そういった機能はないです」


「ということは一ゴールドも使わずに百万ゴールド入金することもできる。詳しいことはわからんが、詐欺か窃盗か何かの罪の温床になるわい」


「見事な指摘です。はい、そのリスクはありますね」

 私はぱちぱちと拍手する。弟子は褒めて伸ばす。


「見事と言ってる場合か! リスクがあったらダメじゃろうが!」


「これが王都とかであればそんな悪党が跋扈しかねません。ただでさえ、うさんくさい奴らのるつぼなのに、そんなのが各地からどんどん集まってきます。その対策のためのコストを考えると、こんなものは夢物語でしょう。ですが――」


 私はカードを指でぱちんとはじいた。


「この島に見覚えのない顔の悪人がやってきて、このカードでひそかに大量に買い物をするなんて可能だと思います?」


「バレる。それと、高額商品売っておる店がない」

「島の守り神なのに遠慮ないな」

 まあ、そういうことなのだけど。


「そう、ここは離島です。だから、島の中だけで使う分には悪用されるリスクは非常に小さいですよね」


「ほかにも問題はあるぞ。入金する店と使用する店舗が違えば、あっちの店で入金して、違う店で使いまくるということもできるじゃろ」


 リルリルは細かいことによく気づく。そう、そこも大きな問題点だ。


「たしかに。帳簿が正しいものならあとで調整が可能ですが、九百ゴールドで千ゴールドの入金をするような不正をされて儲けられると大変なことになりますね」


「そうじゃ、そうじゃ。えらいことになる」


「ぶっちゃけ、そこの課題も私は解決できてません。魔導具の領分では無理があります。でも、ここ、島ですからね。不正は隠せませんよ。島の規模――最後はそこに落ち着くわけです」


「店が繁盛してないのに、急に羽振りがよくなればバレますわよ。たった一人で秘密を抱えられるほど人間は強い生き物ではありませんし」


 ナーティアの指摘は詩人的だが、けっこう的を射ている。


「こういう不正が成立するのは、権力者が背後にいる場合だけです。逆に言うと、権力者がルールを曲げたらやりたい放題ですが」


 私は試すように、いや、試すつもりでエメリーヌさんを一瞥しようとしたが、その前に先手を打たれた。


「うん、いいんじゃないかしら?」

 エメリーヌさんはいかにも領主ですという態度で腕を組んでいた。

 小さいこと以外は文句なしに領主的だ。


「発生する様々なリスクを島の規模だからという一点で封殺する論理はどうなんだと思って見てたけど、たしかに大丈夫そうな気はしてきたわ」


「ご理解いただけたようで」

「それで、わたしの前でずっとこの話を続けたっていうことは、そのなんたら先払いシステムに許可を出せってことでしょ?」


「ご明察です。それと、【青翡翠島用先払いシステム】です。島の経済に影響が出ることを領主にことわりなく行うことはできませんから」


「島だけでの運用なら別にいいわ。仮にカードの悪用が明らかになっても、シャレにならない額になることはなさそうだし」


 もっとも、まだ私は安心しきってはいない。


 許可をするとおっしゃってくれてはいるんだけど、その割にふてくされた顔をしてるんだよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ようは入出金用魔道具を管理する人の信用問題ですね。 でもいちおう不正があったら発覚しやすいように、なんらかの形で入出金の記録が残るようにしておかないと危険かも? という気はします。 さてうまくいくのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ