先生ありがとう
「やっと完成したは、手伝ってくれてありがとう」
私は私の足の型を取って作ったチョコレートを、冷蔵庫に入れながら友人に礼を言う。
「チョット時間が掛かったけど出来上がったね。
それで、それ誰に渡すのかな?
ムフフフフ、何時の間に私の知らない彼氏が出来たの?」
「……」
「え! いま変態教師の名が聞こえたんだけど、間違いだよね?」
「ウウン、聞き間違いじゃないは先生に渡したいの」
「チョ、チョットまって!」
彼女は私の額に手を当てた。
「熱は……無いな、熱が無いって事はあの変態教師に脅されたのか?
あいつあんたの足に執着していたから」
「違うの!
ああなってしまったのは私のせいなの、最初から話すから聞いてくれる?」
「あんたのせい? ウン、聞くわ」
「私、あなたが転校して来る少し前まで苛められていたの」
「苛め? 誰に苛められていたの?」
「全部話すから黙ってて」
「あ、ごめん」
「中学から陸上を始めて、中学の先生や中学校の卒業生でボランティアでコーチをしていた方とかに、才能があるから設備の整った高校に行くと良いって勧められた。
それで外部入学になるけど設備が整っていて、多数の陸上部の部員が大学に推薦入学しているうちの学校を選び入学。
直ぐに陸上部に入部したのだけど陸上部の部長をしていた先輩に目をつけられて、部長の先輩自身には苛められなかったけど、その取り巻きの人達に苛められた」
「一昨年卒業した陸上部の部長って、東大に一発合格したあの人?」
「そう、後から考えるとあの頃先輩スランプで記録が伸び悩み苛立っていた。
其処に中学の記録を幾つも塗り替えた私が入部してきたから、苛立ちを私にぶっつけたみたい」
「先生に言わなかったのかよ?」
「言ったわ! 担任や陸上部の顧問に。
でも2人共口を揃えたように、文武両道に秀でている彼女がそんな事する訳が無いって返事を返してきた。
そのうえ顧問には、彼女の指導が辛くてそんな事を言うのだろうって怒られた」
「酷い」
「両親に無理を言って、冬は雪に埋もれる県から東京の学校に入学させてもらっているから、辞めたいとか転校したいなんて言えない。
他の部員は皆んな私が部長とその取り巻きの3年生や2年生に苛められているのを知っているから、誰も助けてくれなかった。
誰にも助けてもらえず相談も出来なくて疲れ果て、私が自殺したら苛められていたことに気が付いて貰えるのかなぁなんて考えながら、夜遅くに繁華街の近くにある公園でボーとしていたとき先生に声をかけられたの。
私そのとき久しぶりに優しく声をかけられたから思わず泣き出しちゃった。
先生は突然泣き出した私を見て慌てていたけどね」
「アハハハ、そりゃそうだ」
「そのあとイタリア料理店でご飯を食べさせてもらった。
そのとき苛めの事を先生に話したの。
そうしたら先生、まだ学園に赴任して2年目の僕ではあまり力にはなれないけど、出来るだけの事はするって言ってくれた。
翌日、校長とかに話しを持って行ってくれたみたいなんだけど、顧問や担任が言ったみたいに、あの文武両道の生徒がそんな事をする訳が無いって言われて、逆に怒られていた。
それから直ぐだったな、先生が授業の無い時間や放課後に生徒の足を見るようになったのって」
放課後陸上部が練習している時だった。
部長が取り巻きの3年生や2年生とお喋りしていた時、校舎から校庭に続く階段に座っていた先生が大声をあげる。
「ゴラー! 其処の2人見えないだろう退けー!」って。
校庭で練習に励む陸上部以外の運動部の部員たちを含め全員が、その大声に首を傾げた。
暫くして私が先輩の取り巻きたちに絡まれたときにまた先生が大声をあげる。
「見えないから退け! って言っているのが聞こえないのかー!」
そこで陸上部の部員の1人が何かに気が付き話す。
「ねー、あの先生、私達の足を見ているんじゃない?」
その言葉に校庭で汗を流す運動部の部員全員が先生の目線をたどる。
確かに先生の目線は私達の腰から下を舐めまわすように見ていた。
特に私と先輩の足を、部長4、私4、その他2の割合で見ている。
その事で校長や教頭に怒られていたけど、先生は何処吹く風って顔をしていた。
「先生がそれをやり始めてから苛められる回数が減ってきた、皆んなの関心が私から先生に移ったみたいで」
「それで苛められる回数が減ったのは良いけど、そんな事よく出来るね?」
「うん、私もそう思って聞いてみたらこう言われた。
生徒の自殺を防げるのなら僕は変態って言われても構わないって」
「えぇー! あの先生がそんなカッコイイこと言ったの?」
「うん。
そのあとなんだけど、私や部長やその他を見る比率が段々変わってきた。
最初は部長と私が4でその他が2だったのに、それが3、4、3に変わり、続いて3、5、2になり、最後に2、6、2になっていた。
そうしたら部長が集中的に見られる私に同情してくれて、優しい言葉を掛けてくれるようになったら苛めが無くなっていた」
「先生が意図的に比率を変えたんだね、でも苛めが無くなったのに何でまだ変態行為を続けている訳?」
「私に対する苛めが無くなったからもう止めてくださいって言ったらこう言われたわ。
君達の足を見ていたら癖になっちゃって、辞められなくなっちゃった。
それに君たちの足を眺めるのにあちらこちら彷徨いていたら気がついたのだけど、苛められているのは君だけでは無かったからね、って」
「くぅーカッコイイ!
それを聞かされたらもう「止めろ」なんて言えないは応援するよ、頑張って!
でも夜遅くに先生そんな所で何をやっていたのかが、疑問なんだけど?」
「神待ちの女の子たちの間で、スニーカーの神様って言われている人がいるでしょ」
「うん、聞いたことがある」
「私の憶測なんだけどスニーカーの神様って、先生の事だと思うの」
「何故そう言えるの?」
「それはね、私に話しかけて来たとき持っていたバッグにブランド物のスニーカーが沢山入っていたから。
この事は内緒にしてくれる、先生の迷惑になると困るから、お願い」
「分かっているって、寧ろバレンタインのときあの先生がそのチョコレートを受け取る顔が楽しみだ。
じゃ、あたし帰るわ、またね」
「うん、今日はありがとう」