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婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?  作者: 江原里奈


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48 寝取り令嬢は恐怖に怯える


 いったい、これはどういうことかしら?

 買収した侍女から、カタリナがまた王都に行ったという情報が入ったの。

 なぜ、そんなことが許されるのか理解できないわ。

 間違いなく、エルフィネス伯爵には魔女の悪夢を見せたはず。王都に居続ければ娘は未婚の令嬢としての評判を落とし、名門貴族の家門の恥になるって。

 それなのに、なぜ……!?

「……そこまでの話は、私は存じ上げませんわ。ただ突然、旦那様も奥様もうれしそうなご様子でお出かけになりまして……」

 わたくしの剣幕に、侍女はおどおどしながら状況を説明してくる。

「カタリナは、どんな様子だったの?」

「それが……お嬢様だけは、浮かないお顔をされておりましたわ……」

 彼女の話から推測するに、カタリナは王都に行ったからといって元通りの生活を送れるわけではなさそうだ。

 エルフィネス伯爵夫妻が喜んでいるのに、カタリナはそうではないということが何よりの証拠。

 もしかしたら、いい縁談が舞い込んできたのではないかしら?

 だって、伯爵はユーレック子爵を警戒しているはず。

 それなのに、わざわざ彼がいる王都に行くなんて、それ以外の何が考えられるだろう?

 いずれにしても、伯爵夫妻が喜んでいるっていうことは、それなりの家門の貴族との縁談に違いない。

(まったく、腹が立つわね……相手はいったい誰なのかしら?)

 悔しい気持ちを噛みしめながら、わたくしは自分がどうするべきかを考えた。



「……なかなか、あんたの悩みは解決しないんだねぇ」

 開口一番、魔女はそう言ってきた。

 ここはベルンの裏通りにある「魔女の館」のオーナーの部屋。

 猫アレルギーのわたくしは、この部屋に入るときから口にハンカチを押し当てていたが、どうやら前にいた黒猫は優雅に散歩中らしく、鼻のムズムズやくしゃみは出てこない。

 しかし、ホッとするのはまだ早かった。

 今日の本題は、黒猫がいるかいないかではない……カタリナの今後を占ってもらって、それからどういう手段で彼女を追い落とすかを考えなければ。

 用件を伝え終わると、魔女は呆れたようにわたくしを眺めた。

「お嬢さん、最近のあんたは本当によくわからないよ」

「何がかしら?」

「最初はね、その婚約者が好きだから相手から奪おうっていうのは理解できたさ。でも、いまは何だい? 婚約者がどうこうじゃなくて、とにかくその婚約破棄されたお嬢さんを出し抜きたいだけじゃないか」

 そう言われてみれば、たしかにそうかもしれない。

 でも、ここまで来たら、もう止められないのよ。

 だって、わたくしよりも彼女が幸せになるなんて許せないもの。

 あんな取り柄がなくてダサい子が王都に行った途端、キラキラし始めたのが気に入らないわ。

 婚約破棄したのにもかかわらず、フィリップの心を掴んだまま。しかも、素敵な殿方を射止めて、カフェ事業を成功させているのも腹立たしい。

 フィリップがわたくしをきちんと見てくれたら、こんな惨めな気分にならないと思う……でも、わたくしが南部に戻ってから彼からは手紙の返事さえも戻って来ない。

 しがない役人なんだから、忙しいなんていう言い訳は聞かないわ。

 無言のままで悩んでいるわたくしを見て、魔女は肩を竦めた。

「さて……今日は、あたしはあんたに何をすればいいんだい?」

「とりあえず、わたくしを苦しめている女がどう過ごしているかを見てほしいわ」

「わかったよ。じゃあ、これで見ようかねぇ」

 そう言って、傍らにあった水晶玉を手繰り寄せ、上にかけられていた黒い布を取った。

 魔女が手を翳すと、水晶玉は不気味な光を帯びていく。

「ほぉ……そうかい、そうかい」

「……なにかわかったの!?」

 身を乗り出すわたくしに、彼女は勿体ぶった笑みを浮かべる。

「そうだねぇ。どうやら、あんたが嫌いなお嬢さんは、すごくきらびやかな場所に招かれているようだよ?」

「きらびやかって、高位貴族の屋敷かしら?」

「どうだろうねぇ……あれまぁ! 国王陛下がいるじゃないか。これは王宮じゃないのかい?」

「王宮……!? そんな馬鹿な!」

 魔女が嘘をついていると思ったけれど、彼女はわたくしに水晶玉を差し出してきた。

「ほら、あんたも見ればいいさ。あんただって、国王陛下の顔くらい新聞や何かで知っているだろう?」

 覗いてみると、本当に小さいが絢爛豪華な室内が見える。

 王冠を被った国王陛下の前にいるのは、エルフィネス伯爵夫妻とカタリナ……!

(いったい、何の謁見をしているというの?)

 わたくしは、あの一家が王都に行ったのは縁談のためだと思っていた。

 しかし、よく考えてみるとふつうの貴族同士の縁談であれば、求婚者のほうが令嬢の屋敷に足を運ぶのが当然ではないだろうか?

 それをせずに令嬢の家族がわざわざ王都に向かうということは、相手はよほどの高位の貴族……王家の血筋を引く者ということになる。

 このベルクロン王国のしきたりで、王子は王宮の外で自分の身分を知らずに暮らし、一定の時期になったら王太子を決めて他の王子たちはそれ相応の領地を得る。

「……カタリナの縁談の相手って王子なの……!?」

 わたくしが漏らした悔しそうな声に、魔女が手元にあるタロットカードをシャッフルして一枚を引いた。

「ふぅん……面白いね。あんたの予想は当たっているよ」

「えっ」

 魔女はわたくしの前に、人物が描かれたカードを見せてきた。

 カップを手にした白馬の騎士が描かれている。

「このカードはね、あんたが嫌っているお嬢さんにとって理想的な求婚者ってことさ。誠実な恋愛ができるっていう相手だね……二人は理想的な結婚をするだろうよ」

 それを聞いて、イライラしてくる。

 なぜ、いくら彼女から大事なものを奪っても、彼女はわたくしが持つもの以上のものを手に入れられるの?

 生まれつきの強運に恵まれるのが、なぜわたくしじゃなくてあの子なんだろう?

「……ねぇ。どうすれば、あの子の幸せを壊すことができる?」

 屈辱感に震えながら、わたくしは魔女に尋ねた。

「それは、むずかしいだろうねぇ。これまで何度も介入して壊れないのだから、何かしらの守護があると思うよ」

「それを何とか……!」

「言っておくけどね、そういう暗い感情を持ち続けていると、あんたには災厄が降り注いでしまうからね」

 カードをシャッフルして、引いた一枚を彼女はわたくしの目の前につきつけてきた。

「こ、これは……」

 雷に打たれて高い塔が崩れ落ち、人が真っ逆さまに落ちていく絵――そんな不気味なカードを見せられたわたくしは、言葉を失った。

「あんたの近未来さ。この塔の窓から落ちていくのがあんただよ」

「そ、そんなはずがないでしょう……!?」

「いや、もう崩壊の足音が聞こえているよ。せめて、命だけは失わないように気をつけないとねぇ……ふっふっふっ」

 不気味な笑い声を聞いて、わたくしは震えながらその場を立ち去った。

(そんなこと……そんなことは、信じないわよ……!!)

 そう思っているのに、魔女の館が見えなくなってからも、あの不気味な絵柄は脳裏に焼きついて離れそうになかった。


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