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Eater of World  作者: 佐藤 終
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プロローグ


人の幼少期というのはとても無力だ。


両親、兄弟姉妹、親戚といった『他人』に自分の価値を測られ、能力を限られ、生存権を握られる。


そうでなければ生きることすら難しい、無力で非力な存在である。


もちろんそうでは無い者たちも居るがそれは一部の上流階級の、そのまた一部の『まとも』な人達に育てられた者に限られるだろう。


自分ではなく他人に依存する環境、それに一度不満を持ってしまえばその不満をこの先一人になるまで隠して生きていかなければならない。


それがもし露呈してしまえばより不自由になるか、最低限の教育すら放棄されるだろう。





「……」


それなりに生活感のある部屋で独りフローリングの上で目覚める、早朝か夕方なのだろう窓からはオレンジ色の光が射し込んでくる。


「…夕方か」


空腹感で目が覚める。


「何か、食べられる物あるかな…」


あちこちが痛む身体を認識しながらゆったりとした動作で冷蔵庫まで歩いていく。


正面が鏡面になっている冷蔵庫にはボサボサの手入れのされていない髪で目が隠れ、痩せ細って頬が痩けている生気の無い目をした黒髪の少年が立っている。


そんな見慣れた姿を努めて見ないようにしながら重い冷蔵庫の扉を開け、中から食べ物と普段は飲めないジュースを出し扉を閉める。


取り出した食べ物とジュースを急いで平らげながらいつものように思考の海に潜る。


『緊急警報、緊急警報、今東京都○○区で致死度等級【死亡級】『厄災』が観測されました。○○区から半径50kmにお住まいの方は直ちに避難してください。繰り返します、今…』


外からサイレンの音とともに先程の内容が繰り返し聞こえてくる。


「〇〇区、すぐ近くだ」


間違いなくこの家も避難しなければならない範囲に含まれているだろう。


今家族は全員出払っていて家には僕しかいない、避難するなら僕一人で動かなくてはならない。


「僕のこの身体では10km以上も移動するのは現実的じゃないがこれだけの範囲の避難指示だと交通機関を利用するのも不可能だ、かと言って家に籠るのもダメだ出現したのは【死亡級】の『ザイン』、戦闘が発生すれば間違いなくこの辺りは塵も残らない」


「まぁでも移動しないよりはした方が生存率は高いか…」


外が騒がしくなってきた。


聞こえるのは大勢の足音とクラクションあとは怒号と泣き声、ご近所さん達はもう避難を開始しているらしい。


「持っていくのは嵩張らない食料と水だけで良いな」


とりあえず行動しないことにはどうしようもないと思った僕は、玄関に吊るしてあったエコバッグに適当な保存食とペットボトルの水を入れた。


「はぁ、久しぶりの外出が必要に駆られての避難なんて…」


サイズの合ってない靴を履いて玄関を開け、久しぶりに外に出る。


日が傾いて茜色の空を見上げつつ、できるだけ長く歩けるように自分のペースで歩く。


「もう大体の人は避難したのか?」


家を出るまではあれだけうるさかったクラクション等の喧騒がもうほとんど周りで聞こえないし人の気配がしない。


「まぁ当然か俺以外の人達は大抵車で移動してて移動速度が…」


待てよ、なんでほとんどの人が車で移動してるのに何処にも渋滞が発生してないんだ?


交通量は通常時と比べて尋常ではない量になってたはず、しかも我先にと避難する統率の取れてない市民の群れだ。


絶対に何処かで事故が起こるし仮に起きていないとしても渋滞が起きていないのはおかしい。


「でも事実ここには僕しか居ないし周囲で音も聞こえない」


間違いなく【死亡級】の『厄災』とやらの仕業だろう。


不安からかさっきよりも少し早くなった足取りで郊外に向けて歩いていると、なんの前触れも無く暗闇が辺りを包み、しとしとと雨が降り出した。


「なんだ…これ」


突然の出来事に思わず足が止まる。


いつもは冷静に状況を分析出来ている脳みそがショートを起こしたように言うことを聞いてくれない。


僅かに聞こえていた風の音すら止んで、ただ雨音がするだけになった。


「『厄災』…この辺に居るのか…」


僕はたっぷり40秒ほど使って脳の再起動を果たした。


足元を見てみると地面が見えない、振り返っても道は無く、ただ暗闇だけがそこにある、空は絵の具で塗りつぶしたみたいに真っ黒でその中にポツポツと星のようなものが瞬いている。


まだ殺されていないということは殺す気が無いかそもそも補足されていない、ここから出る方法は不明だが後ろに進めない以上その場に留まるか前に進む以外の選択肢が無い。


「後ろに下がらせる気がない、捕捉されてないと思っていたけど誘導されてるとしか思えないな」


暫く考えた後僕は慎重に前に進み始める。


しばらく進んでいると、空から細長くて白い『糸』のようなものがゆっくりと黒い空から降りてくる。


その光景はとても神秘的で僕の語彙ではとても表現しきれないが、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のワンシーンのようだと思った。


そして、その細長くて白い「糸」はその辺りだけが外から切り離されたような雰囲気を持って、眩い光が差し込んでいる。


「…」


僕は誘蛾灯に寄せられる虫の様にその「糸」に吸い寄せられる。


そして僕はその『糸』を手繰り、迷いなく引いた。


その瞬間、世界が変わってしまったような気がした。


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