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8月2日  夏休み、隣の席の女の子がご飯を作ってくれました。

一定のリズムで刻まれる心地の良い音と、いい匂いで俺は眠りから覚めた。


「痛てて、てて。」


ソファーで寝たからか体の節々が少し痛い。


「大地、おはよ~。もうすぐ朝ご飯出来るよ。」

「朝ご飯?」

「うん。勝手に冷蔵庫の中漁ったよ。」


俺は眠い目を擦り、体を起こし和奏の所に行くと彼女は出来た料理を机に並べているところだった。

白米に味噌汁、焼き魚、卵焼きとザ・朝ご飯と言わんばかりの物でテーブルが埋まっていた。


「それじゃあ、食べよっか。」

「ご飯は和奏も食べるんだな。」

「せっかく一緒に居るんだし、食べるよ。食べなくてもいいんだけどね。」

「そっか。いただきます。」


俺はそう言って、箸を手に取りまず味噌汁から口に運ぶ。


「美味しい。」


俺は無意識にそんな言葉を口にしていた。

いつぶりかの心温まるご飯。

俺の手は止まることを知らずに気づけば完食していた。


「ご馳走様でした。美味しかったよ。」

「お粗末さまでした。それは良かったけど、大丈夫?」


そう言って彼女は俺の顔の方に手を伸ばしてくると、俺の目の辺りを指で優しくなぞるような仕草をした。

その指にはキラリと光る雫があった。


「涙が出るほど美味しかった?」


俺は彼女の問いに答えられずただ黙って、《《昔のこと》》を思い出していた。


すると、突然頭に何かが乗せられる感覚がした。

俺はゆっくりと顔を上げると、それは昨日クレーンゲームで取ったぬいぐるみの手だった。


和奏が持つその手はゆっくりと俺の頭を撫でる。

それはとても心地よかった。


「ほら、泣いちゃダメだよ。笑って!どれだけ辛いことがあったとしても、その後にはそれだけ大きないい事が待ってるんだから。神様はちゃんと見てるからね。」


俺は和奏のその言葉が何故か胸に刺さった。

今までの辛さがスッと取れるような感覚。

下を向いたままではダメだと、そしてこの時俺はあることを決心したのだ。


「そうだね。泣いてちゃダメだね。ありがと、和奏。」


俺は涙を拭い、笑ってそう言った。

そんな俺を見てか、和奏の顔が少し赤らんでいたのは気のせいだろうか。





時間が流れるのは早く、時刻は19時を回っていた。

和奏が作ってくれた夜ご飯を食べ終え、俺は1つ大きく深呼吸をした。


「和奏、ちょっといいか?話しておかないといけないことがある。」


俺がそう言うと彼女は不思議そうに俺を見て首をかしげる。

俺はゆっくりと話し始める。


「俺には親がいないんだ。俺が産まれてすぐに親が離婚して、それから母さんに育てて貰った。それからしばらくは友達もいて、何不自由なく暮らしていたつもりだった。でも違った。俺が中学卒業の日。母さんは出て行ってしまった。近所の人たちから陰口や悪口、いじめのようなことを受け続けてついに耐えられなくなった。友達だと思っていたみんなの家族も裏では母さんの敵だったんだ。それから、俺は他人を信じられなくなった。俺に向けられる笑顔も、言葉も。

地元から離れたくて遠くの高校に入る時に、親戚の人が俺を引き取ってこの家を借りてくれたんだ。

でも、俺は友達を作れなかったし、作らなかった。1人の方が楽だったから。」


俺が話すのを和奏は黙って聞いていた。

しばらく無言の時間が続き、先に口を開いたのは彼女の方だった。


「話してくれてありがと。大地も話してくれたし私も話さないとね。明日の夜、時間空けといて。」


彼女は真剣な顔で俺に向かってそう言ったのだった。


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